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実事求是〜日韓のトゲ、竹島問題を考える〜

第20回

「東北アジア歴史財団」の愚挙

 

 韓国の「独島研究所」(東北アジア歴史財団)は、2009年5月18日から29日にかけ、国会議員会館と国会図書館で「欝陵島から望む独島展」を開催した。独島研究所では2008年度事業として「独島可視日数調査」を実施しており、欝陵島から日本領の竹島が見える日数を調査してきた。その際に撮影した30点余を公開したのが今回の「欝陵島から望む独島展」で、韓国国会の「独島領土守護対策特別委員会」が後援した。

 だが韓国領の欝陵島から日本領の竹島が見えたからといって、独島研究所が目論むように、「究極的に竹島が我が国の固有の領土であることを否定する日本側の主張の虚構性を反駁し、国内外にそれを遍く知らせる効果」は、期待できない。

 すでに日本政府は1905年、国際法に基づいて無主の地であったリャンクール島を竹島と命名して日本領としており、韓国側には竹島を固有の領土として主張する資格そのものがないからだ。固有の領土という概念は、これまで外国によって支配されたことのない領土に対して言うもので、竹島は1905年から日本の実効支配下にあった。無主の地を編入した日本には、竹島を固有の領土とする資格はあるが、韓国側にはそれが無いのである。

 それに独島研究所が伝えるように、「今回の展示会を通じ"欝陵島から独島が見える"ということは、『世宗実録地理志』等、古文献の歴史的記録を実証的に証明」することにもならないからだ。

 韓国側では『世宗実録地理志』(蔚珍県条)に記載された于山島を今日の竹島と曲解し、「風日清明則可望見」(風日清明なればすなわち望み見るべし)を、欝陵島から竹島を望み見た記事と一方的に解釈してきた。だが『世宗実録地理志』の「可望見」は、朝鮮半島から欝陵島が望み見ることができるとした記述で、竹島とは関係がない。それは同様の記述をしている『東国輿地勝覧』の「蔚珍県条」を読めば明らかである。そこでは「風日清明則」に続いて、「峯頭樹木及山根沙渚歴々可見」と、朝鮮半島から見た欝陵島の模様が詳述されている。

よく晴れた日、歴々と見えるのは「峯頭の樹木及び山根の沙渚」で、見えているのは岩礁の竹島ではない。竹島には、樹木や沙渚はないからである。そこで韓国側では、竹島には樹木があったはずだとして岩場の僅かな土地に植林し、今も竹島の自然体系を破壊し続けている。これは文献が読めないことに起因する、暴挙である。

 竹島問題が歴史問題である以上、文献的根拠を示し、それを実証する責務がある。その点で、『世宗実録地理志』の「可望見」と『東国輿地勝覧』の「歴々可見」が、朝鮮半島から見た欝陵島のことを指していた事実は、歴史が証明している。

 17世紀末、日本側と欝陵島の帰属を争った際、朝鮮側が欝陵島を自国領として主張する論拠としたのは『東国輿地勝覧』の「蔚珍県条」である。その時、朝鮮側では「歴々可見」を朝鮮半島から欝陵島が「歴々見える」と読み、欝陵島を朝鮮領とする根拠としていた。

その他、『東国輿地勝覧』の「歴々可見」を、朝鮮半島から欝陵島が「歴々見える」と読んでいるのは、『東国輿地勝覧』の「蔚珍県条」を参考に「欝陵島」を書いた朴世堂も同様で、金正浩の『大東地志』でも「本県(蔚珍県)より、天晴れ、高きに登り望見すれば、則ち雲気のごとし」として、朝鮮半島から見た欝陵島のこととしている。

 それがなぜ、韓国側では「可望見」や「歴々可見」を欝陵島から竹島が見えると拡大解釈されることになったのか。それは外務省の嘱託であった川上健三氏が『世宗実録地理志』や『東国輿地勝覧』の「見える」を計算式で証明し、欝陵島の高所に登らないと竹島は「見えない」としたことが原因となっている。川上氏としては、韓国側が『世宗実録地理志』や『東国輿地勝覧』の「見える」を欝陵島から竹島を見た記事と解釈したことに対し、反論したかったのであろう。しかし川上健三氏も、最初から『世宗実録地理志』や『東国輿地勝覧』に対する文献批判をしていれば、韓国側の暴走を招くこともなかったのである。

 だが反面、川上健三氏の見解に反発して、『世宗実録地理志』や『東国輿地勝覧』の記述を恣意的に解釈した韓国側は、自らの歴史研究の限界を露呈することになった。それは韓国側の歴史研究の特徴が文献批判を等閑にし、「竹島は韓国領である」とする先入見で文献を解釈する傾向が強いこととも無関係ではない。現に『世宗実録地理志』や『東国輿地勝覧』の于山島は、今日の竹島とは全く関係がなかったことが実証されているからだ。

 これまで韓国側が于山島を竹島とする論拠としてきた『東国文献備考』の分註(「輿地志に云う。欝陵、于山皆于山国の地。于山は則ち倭の所謂松島なり」)は、後世の捏造であった事実が確認され、于山島を今日の竹島とする韓国側の前提が崩れてしまったからである。

 韓国側としては『東国文献備考』の外に、于山島を今日の竹島とする文献を発掘し、竹島を実効支配してきた歴史的事実を証明することができない限り、韓国側による日本領竹島の侵略という歴史的現実から逃れることはできない。歴史的根拠が無いまま文献を恣意的に解釈し、奪われた竹島の領有権を主張する日本を「領土的野心」として誹謗し続けることは、自らが唱える「人類の普遍的価値」にも悖る破廉恥な行為だからである。

 事実無根の「欝陵島から望む独島展」を開催した「東北アジア歴史財団」は、またしても虚偽の歴史を捏造し、国際社会を欺瞞したのである。

(下條正男)


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