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北前船と竹島

 日本海文化交流事業として青森港を出発した復元された北前船「みちのく丸」が日本海の各地に寄航しながら、平成23年7月30日松江市美保関港に到着したので、竹島資料室のスタッフそろって出掛け乗船、見学させてもらった。船の全長32メートル、幅8,5メートル、帆柱28メートル、帆24反で船内も想像以上に広かった。

1.「石見外記」

 美保関は中世、近世と山陰地方で重要な海港として数多くの歴史に関与している。蝦夷地方の開拓に尽力し、松前藩の用達として北前船の航路の発展に貢献した高田屋嘉兵衛の持船が美保関に寄港中、2回にわたって美保神社の神事に使用されたという。高田屋嘉兵衛については浜田藩の儒学者中川顕允(あきすけ)が文政年間に記した『石見外記』(いわみがいき)に載せた「大御国環海私図」(おおみくにかんかいしず)に「高田屋嘉兵衛カ商船ハ朝鮮海ニ出テ蝦夷地ヘ乗ルトソレハ、下ノ関ヲ出帆シテ戌亥(北西)八リ(里)ナカシ(流し)、松竹二島ノ間出テ転ス、丑寅(北東)ヲ目アテニ乗リシニアラス」と書き込みがある。西周りの航路で日本海を通って蝦夷地に向かう際には、下関を出て北西へ8里行き、そこから松島(現在の竹島)と竹島(現在の鬱陵島)の間を通って北東へ転換したというのである。高田屋嘉兵衛は淡路島の生まれで淡路島には彼の記念館があるがそこに嘉兵衛が所持していた絵図が展示されている。生まれ故郷の瀬戸内海の淡路島は書かれていないのに、隠岐島やその先に松島、竹島らしい島が描かれている。

2.「日本針図」

 鳥取藩米子の御船手組が旧蔵していた「日本針図」(にほんしんず)という絵図がある。「針図」とは方角を示すことを目的にし、「夷国之針図」もある。天保9(1838)年里数を入れて完成したとあるが、この図も竹島と松島の間に航路を書き「松前エカエル船冬分多ハ竹嶋松嶋ノ間ヲ開ク」と北前船が竹島、松島の間を通ることの記載がある。北前船は日本列島に沿って各地の港に寄航して松前からは、鰊(にしん)、鮭(さけ)、昆布等の海産物を積み込み、西日本では米、塩、酒、木綿等の品物を買い取っているが、美保関では雲州和紙、朝鮮人参、ろうそく、鋼等松江藩の主要産物が運び込まれたという。米等ある特定の場所から積み込む場合は大坂、下関、松前の遠乗りの航路を利用し、目印として利用出来、暴風雨の避難場所にもなる竹島、松島の近海を通過していたのである。

3.『近藤重蔵全集』

 最近『近藤重蔵全集』を見た。重蔵は明和8(1771)年幕府の与力の子として生まれ、松前蝦夷御用取扱や東蝦夷地エトロフ掛等を務めた。『全集』にある「大日本史料付図」の「北太平洋及び周辺図(其一)」には、松前から隠岐の北方を通過し竹島、松島そばを通り下関に向かう北前船の航路が点線で示されているし、重蔵が残した文書には松前の船頭達は竹島、松島の間を通って下関に行くと言っていると記したものもある。

4.『長生竹島記』

 出雲大社の神官矢田高当(たかまさ)が享和元(1801)年聞き書きとしてまとめた『長生竹島記』には、「竹島渡海之砌、竹島丸往き通ひニハかならす此島江津掛りをなしたると云、当時も千石余の廻船夷ぞ松前行ニ不量大風ニ被吹出之時ハ、これぞ聞伝ふ松島哉と遠見す、本朝西海のはて也」と松前への航路に松島を遠見することを記している。

5.『竹嶋渡海一件記』

 天保竹島一件で知られる浜田の直乗船頭八右衛門はその口述書である『竹嶋渡海一件記』に松前へ渡海するたびに竹島の近くを通ったことを述べている。

6.『朝鮮水路誌全』

 時代は下って明治27(1894)年日本海軍水路部が編集した『朝鮮水路誌全』の「日本海」の項に掲載されている「リアンコールト列岩」について「此列岩付近水頗ル深キカ如シト雖モ其位置ハ實ニ函館ニ向テ日本海ヲ航行スル船舶ノ直水道ニ當レルヲ以テ頗ル危険ナリトス」と松前の北西部に建設された港函館(明治2年までは箱舘)へ明治期リアンコールト岩すなわち現在の竹島付近から直線的に向かう航路のあることを紹介している。

 

  北前船

写真1復元された北前船

(平成23年7月31日中海を帆走、写真は内田氏撮影)

 

北前船の船頭が寄進した灯籠

写真2北前船の船頭が寄進した「常夜燈篭」、寛政元年と刻まれている。

(美保神社平成23年7月30日撮影)

 

石見外記

写真3高田屋嘉兵衛にふれた「大御国環海私図」

(『石見外記巻四』)

 

日本針図

写真4竹島、松島間にもあった北前船の航路を記す「日本針図」

(鳥取市一行寺所蔵)

 

 (竹島問題研究顧問杉原隆)


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