島根県人権啓発推進センター広報誌「りっぷる」12号
2010年11月発行、島根県人権啓発推進センター
「りっぷる」は英語で「さざなみ」という意味を持っています。
この広報誌によって人を大切にする心や思いやりの輪が、さざなみのように広がってみんなの心に届くように願っています。
■内容
特集「子どもの人権・児童虐待を考える」
○親支援の取組
○ケースワーカーの現場から
○虐待から子どもを守るために
○里親の想い
人権いろいろ
○DV(ドメスティック・バイオレンス)
■表紙絵
平成22年度人権啓発ポスターコンクール・中学校の部最優秀賞・岩田瞳さん・安来市立広瀬中学校3年生の作品
〈評〉
人物の表現がそれぞれにポーズを変えて居場所を考え、大きさや位置を変えながら、テーマに沿って見事に表現されています。「助けて!という声、聞こえますか?」とみんなに呼びかけ、問いかけているのですね。文字の大きさも変え、学校とクラスの気持ちとみんなの声のなかに、「聞こえますか?」と問いかけています。ゴシック体の文字とイラストの構成がよく、細部までとてもよく描けている素晴らしい作品です。
島根県の平成22年度人権啓発ポスターコンクールには、1341点の応募があり、9月21日の審査会を経て小学校・中学校・高校の各部で、合計36点の入賞・入選作品が決まりました。
■2ページ目特集
子どもの人権・児童虐待を考える
子どもへの虐待が大変深刻化しています。全国の児童相談所が対応した相談件数は、平成21年度44211件で過去最高となりました。そして、虐待により死亡した子どもの人数は平成20年度128人に上ります。島根県でも、児童相談所と市町村が対応した相談処理件数は、平成21年度311件で、全国同様、子どもの心身に重大な影響を与える事例が少なくありません。児童虐待は、子どもの健やかな成長を阻害する重大な人権侵害です。
本号では、未来を担うすべての子どもたちの人権が守られ、健やかに成長していくことのできる社会を築くために、理解を深めていただくことにしました。
親支援の取組
島根県中央児童相談所・児童心理司・坂本育美
最近よく耳にするツイッターに、もしもこんな投稿があったとしたら。
上手くできない、自分ってダメだなぁ
どうやったらいいんだろう
このつぶやきは、勉強に悩む学生でしょうか。仕事に行き詰ったサラリーマンでしょうか。友人関係でトラブルを抱えている若者でしょうか。
物事が自分の思うように運んでいかない際、上手くいっていないのは自分だけではないのかという孤独感や、上手くいくためには一体どのような方法をとればいいのかと思案する気持ちは、様々な場面で誰にでもあることです。子育て真っ最中の親御さんたちも、まさしく同じ思いを抱えながら、日々子どもと向き合っています。泣きわめく子どもを前に、「一体どうすれば、泣き止んでくれるの」との思いや、ついつい大声で怒鳴ってしまった自分に「こんなことでイライラして、自分は何てダメな親なのだろう」との思いを持つこともあるでしょう。子育ての悩みや不安は特別なものではなく、多くの人が感じる問題であるからこそ、その悩みや不安が児童虐待のサイクルにはまり込んでしまう前に手を差し伸べる支援が必要ではないでしょうか。
児童相談所では、このような悩みを持つ子育て中の親御さんを対象としたグループワーク(子育て講座)を実施しています。「講座」と聞くと、一方的に専門家が話している内容を聞くだけの堅苦しくて退屈な会を想像しがちなものですが、実際に行っている内容は、少人数でのグループ活動(テーマに沿って話し合いをしたり、ワイワイと雑談をしたり、ゲームの時間を設けたり)が中心です。ゆったりとした時間の中で自分の子育てを振り返り、楽しみながら子育てのコツを学んでいくという、実践的な場になるよう工夫をしています。
参加した親御さんの感想を紹介します。
これが子育て支援のポイントです。
1.子どもと少し離れて、ゆっくり過ごす時間が持てた
「子どもと少しの間でも完全に離れる機会ができ、ゆったりとした気持ちで親同士話をしたり、改めて子どもについて考えることができて良かった」
2.自分の子育てを見つめ直す時間が持てた
「悪い叱り方の例にぴったり当てはまる私。自分を見つめ直す良い機会になった」
「自分が子育てで大切にしたいことを改めて考えられた」
「自分が子育てで何が苦手なのか気づけた」
「何気なく過ごしている1日の中でも、子どもにもこんな良いところがあると分かり、たくさん見落としていると感じた」
3.具体的な子育てのスキルを学ぶことで子育てへの意欲や自信が持てた
「子どもへの普段の関わり方を具体的に教えてもらえて良かった。すぐにでも子どもに試してみたくなった」
「他の人の意見を聞くといろんな発見がある。早速やってみようと思う」
「子育てに正解はないけれども、コツをたくさん教えてもらい、いろいろなやり方を子どもに試して反応をみるのが楽しくなってきた」
4.自分の悩みに共感してもらい安心感が得られた
「他のお母さん方も自分と同じ悩みを抱えていることがよく分かった」
「ストレスって誰にもあるんだなと思って、安心した」
「自分のやっていたことは間違ったことではないのだと分かり、少し心が軽くなった」
「悩んだり、迷ったりしているのは、自分だけじゃないんだと思い、前向きに子育てをしていける気持ちになれた」
最初から完璧な親、完璧な子育ては誰もできません。"親自身が誉められ、認められ、そして具体的なスキルを得ることで、少しでも自信を持って子どもと関わっていき、成長していく"ための支援は、児童虐待の防止という観点からも、とても重要です。
子どもを支えていく存在である親を支援する社会的なシステム作りが、子どもの安全を守り、健やかな育ちにつながると考えています。
島根県中央児童相談所が実施しているグループワーク(子育て講座)の内容
1回90分、全6回講座、対象:児童相談所が認めた就学前の子を持つ親
1.はじめに「子育ての目標を考えてみよう」
2.子どもとのコミュニケーション「聞き上手、誉め上手、叱り上手になろう」
3.親の対応「ごほうびと罰、対応の工夫」
4.子どもの行動の見方、子どもの困った行動「子どもはどんな時に困った行動をするの」
5.子どもの良い行動と長所
6.おわりに「自信と信頼」
■3ページ目
ケースワーカーの現場から
まる月まる日の児童虐待通告への対応・まるまる児童相談所
午前8時30分
始業とほぼ同時に虐待通告の電話が入る。市内某町在住のAさんからで、近隣の家に住む小学1年生B君に関するもの。
「両親共働きの家庭で、夕方から夜にかけていつも大人の怒鳴り声と子どもが叫んだり泣いたりする声がし、時々、その子どもが家の外に出されている」というもの。「その子が外に出ている時に一度話をしたことがあるが、親に叩かれるということも言っていた。通告しようかどうかかなり迷ったが、昨夜も激しいやりとりが聞こえており、勇気を出して電話した」とのこと。Aさんに通告へのお礼を述べ、電話を切る。
早速、所長、課長と緊急の受理会議を行う。所長から虐待の恐れがあるため児童や家庭の様子を調査するように指示がある。
午前9時
市役所の児童福祉担当課に事情を伝えてB君の家庭の状況を伺う。B君は両親、保育所に通う3才の妹との4人家族。今年の春からC小学校に通っている。1年前に東京から転居してきたとのこと。
続いてB君の通う小学校の教頭先生に事情を伝えてB君の様子について伺う。今日もいつもどおり元気に登校しており、変わった様子はないという。担任が母から聞いた話では、「B君が下の妹にすぐちょっかいを出して泣かせるので困っている」とのことだった。参観日にはお母さんが毎回来ておられる。B君について特に気になるあざなどは見かけたことがないという。
市役所と小学校の情報を再度、所長、課長に報告。お父さんかお母さんが帰宅すると思われる7時過ぎに、家庭を訪問し虐待の有無を確認するという方針を決定する。
午後7時20分
通告のあったB君宅へ同僚と一緒に家庭訪問に出かける。お宅にお邪魔すると、お母さんが出て来られ、最初は非常に警戒しておられたが、「多分、いつかは通告されると思っていました」と言われ、とても育児に困っていること、誰かに助けてもらいたかったが、なかなか相談する勇気が出なかったこと等話された。B君の姿が後ろの方に見えたが、すぐ部屋に入ってしまった。「こちらに引っ越してきて、夫も仕事で夜が遅く相談できる人もいなかった。自分も仕事が忙しく疲れて帰って洗濯物を畳んでいると妹にちょっかいを出す息子Bに対し注意をするけど言うことを聞かないので、思わずカッとなって手を挙げて外へ出してしまった。小学校にあがり急に反抗しだしたので、どうしたらいいか分からなかった」という。お母さんに「児童相談所へ親子で出かけていただき、一緒にどうしたらよいか考えてみましょう」と伝え、了解いただく。
午後8時30分
児童相談所に帰り、課長に報告する。通告者のAさんへ電話し、通告していただいたお礼を改めて伝えて電話を切る。今日一日の記録を書いて、夜10時前に帰宅する。
翌日午前8時30分
昨夜の家庭訪問の状況を改めて所長、課長に報告する。
当面は児童相談所で、お母さんとB君の面接を続けながら、見守っていくこととする。
その後、市役所と小学校に報告する。
これは、島根県内の児童相談所に勤務するあるケースワーカーの1日を手記風に記載したものです。出てくる事例は、複数のよく似たケースを組み合わせて記載しているので、実在のケースとは異なります。
いかがでしたか。児童相談所ではこのようにあわただしい毎日が続いています。
関わった子どもや親御さんの笑顔に後日出逢えた時、私たちは「よかった」と思えるのです。
周囲の方のちょっとした勇気ある電話が、より早い段階で子どもや親を救います。
■4ページ目
虐待から子どもを守るために
島根県青少年家庭課
児童虐待とは
虐待を疑われた親の多くは、子どものしつけのためにしているのだと主張します。しかし、本来しつけとは、子どもの欲求や理解度等に配慮しながら社会のルール・マナーなどを身につけるよう働きかけるもので、子どもの人権を無視し、暴力で従わせるものではありません。
児童虐待防止法では、虐待を次のように定義しています。
○身体的虐待:子どもの身体に暴行を加える行為
殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、おぼれさせるなど
○性的虐待:子どもにわいせつな行為をする・させる行為
性的行為の強要、性器や性交を見せる、ポルノグラフィの被写体にするなど
○ネグレクト:保護者が監護を著しく怠る行為
家に閉じこめる、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、保護者以外の同居人による虐待を放置するなど
○心理的虐待:子どもに著しい心理的な外傷を与える言動
言葉による脅し、無視、きょうだい間差別的扱い、子どもの目の前でDVを行うことなど
増え続ける児童虐待相談
全国の児童相談所への相談は年々増加しています。島根県でも児童相談所・市町村での相談件数は増加傾向ですが、平成21年度は減少しました。
虐待に至るおそれのある要因
児童虐待は養育(保護者と養育環境)の問題であり、虐待が起こるときは次の4つの要因が絡み合って起こるものであるといわれています。
1.保護者自身が生育歴の中で愛されてこなかったこと
2.経済的困窮などによるストレスが蓄積していて、生活や家族関係が危機に陥っていること
3.身近に援助者がいなくて社会的に孤立していること
4.保護者にとって満足できない、あるいは何らかの育てにくさのある子どもであること
注意
子ども自身に問題があって虐待が起こるという意味ではなく、そうした子どもの特性をよく理解し、適切に養育することが難しい側面があることを意味するものです。
虐待が子どもに与える影響
虐待は、子どもの身体、心、行動に様々な影響を与えます。
○身体への影響
後遺症、発育不良など
○発達への影響
知的・言語・運動機能発達の遅れなど
○情緒への影響
心的外傷後ストレス障害(PTSD)など
○対人関係への影響
過度な愛着又は反抗的態度など
○感情コントロールへの影響
高い攻撃性や自傷など
○行動への影響
暴力や非行などの問題行動など
虐待の早期発見と速やかな対応が求められます。
子どもを虐待から救うために
虐待のほとんどは家庭という密室の中で起こり、子ども自身が打ち明けることも少ないため、周囲の人が虐待のサインに気づくことが重要です。「虐待を受けたと思われる子ども」を見つけたときには、ためらわず児童相談所や市町村に通告してください。緊急の場合には警察署へ。
通告が子どもの命や安全を守り、保護者への支援につながります。また、通告した人の秘密は守られますし、実際には虐待でなかった場合も、責任は問われません。
児童虐待相談窓口
全国共通ダイアル:0570-064-000
県内の児童相談所
中央児童相談所:電話0852-21-3168
中央児童相談所隠岐相談室:電話08512-2-9810
出雲児童相談所:電話0853-21-0007
浜田児童相談所:電話0855-28-3560
益田児童相談所:電話0856-22-0083
市町村:お住まいの市町村の児童家庭相談窓口
緊急の場合には、最寄りの警察署または110番
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活動紹介
里親の想い
島根県里親会会長・落合慧
家庭に恵まれない子どものために「里親制度」があることをご存じですか。言葉は聞かれたことがあっても、どんな子どもをどんなふうに養育しているのかご存じでしょうか。
「里親制度」は、親の死亡や虐待など様々な事情で、自分の家庭で生活できない子どもたちを、実親に代わって家族の一員として家庭に受け入れて養育する制度です。保護が必要な子どもが、家庭的な環境の中で心身ともに健やかに成長していくために大変重要な制度です。
里親には、実親と一緒に生活できるようになるまで養育する「養育里親」や、養子縁組により養親となる「養子縁組里親」、虐待を受けた子どもや障がいのある子どもを養育する「専門里親」などがあります。里親は、県内では松江、出雲、浜田、益田の4地区で里親会を結成し、里親制度の普及や里親の資質の向上などの活動を児童相談所と連携して行っています。
保護が必要な子どもの数は、全国的にも増加しつつあり、近年は、心理的、身体的あるいは知的な問題や障がいのある子どもが増えており、より専門的な知識や技術を習得した「専門里親」の増員も必要となっています。
児童福祉法や児童虐待の防止等に関する法律など、児童福祉関連法の整備は進みましたが、法律や制度があっても、里親のもとで生活している子どもが、学校で、地域で、差別を全く受けないということはありません。里親は、家庭で差別をすることがないように注意する必要があります。私も、実の子と養育が重なった時期があり、実子と同じように接するよう特に気を配りました。人はだれもが平等です。自由で平等で差別のない社会であってほしいものです。そしてこの世に生を受けた全ての子どもが、健やかに成長して、巣立って、自立することを願うものです。そのためには、里親制度について多くの方々に理解してもらう必要があります。
かつて養育していた子どもが、自立して社会人となり結婚して、「いつまでも元気でいてほしい」という便りをくれました。私ども夫婦にとって、本当に嬉しい便りでした。また、現在、養育している子どもが「もう、どこにも行かないよ」と言うのを聞いて、里親として信頼された気持ちになりました。
里親の使命は、一人ひとり違う子どもをその子に応じて個性を伸ばし、自立させることだと考えています。この使命が果たせるよう、これからも研鑽に励まなくてはならないと思っています。
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人権いろいろ
DV(ドメスティック・バイオレンス)
直訳すると「家庭内暴力」。配偶者や恋人など親しい関係にある人からの暴力で、身体的暴力のほか精神的暴力や性的暴力等も含んだ意味で使われています。以前はプライベートな問題という意識から、なかなか表面化しませんでした。しかも加害者は罪の意識が薄い傾向もあり、被害が深刻化しやすい特性があります。DVは、犯罪となる行為も含む重大な人権侵害であり、個人の尊厳を害するものです。
子どもがいる夫婦間のDVは、子どもが巻き込まれてけがをする危険があるだけでなく、子どもの精神的な安定や心の成長に深刻な影響を与えることから「児童虐待防止法」では児童虐待でもあるとしています。
最近は、10代、20代の若いカップルの間でも起るこの問題を「デートDV」と呼び、防止や解決のための様々な取組も始まっています。
1暴力とは、なぐったり、けったりすること?
「暴力」には様々な形態があります。
1.身体的暴力
殴る、蹴る、突き飛ばす、髪を引っ張る、物を投げつけるなど
2.精神的暴力
大声でどなる、無視して口をきかない、人の前でバカにするなど
3.経済的暴力
生活費を渡さない、お金の使い方を監視する、外で働くことを妨げるなど
4.性的暴力
見たくないポルノを見せる、性行為を強要する、避妊に協力しないなど
5.社会的暴力
行動を監視する、携帯電話等をチェックする、友人との付き合いを制限するなど
多くの場合、何種類かの暴力が組み合わされ、繰り返し行われます。また、加害者の行為は、激しさを増していく傾向があります。
2島根県の状況
島根県のDV相談件数は、平成18年度に急増し、近年は7百件前後で推移しています。
被害者は多くの場合、女性です。この背景には、男性優位・中心の考え方や男女の社会的地位・経済力の格差などの問題があるといわれています。
3一人で悩まないで
こんなふうに思いこんでいませんか?
○被害者(私)にも問題がある
○子どものために我慢すべき
○私の家庭や私の問題だから、自分で解決すべき
暴力はけっして許されることではありません。まずは相談してください。一緒に考えましょう。
全国統一ダイヤル:0570-0-55210(ここにでんわ)
県内の女性相談窓口
女性相談センター:松江市大輪町420:電話0852-25-8071
女性相談センター西部分室:大田市大田町イ236-4:電話0854-84-5661
出雲児童相談所:出雲市小山町70:電話0853-21-8789
浜田児童相談所:浜田市上府町イ2591:電話0855-28-3434
益田児童相談所:益田市高津8-14-8:電話0856-31-1886
中央児童相談所隠岐相談室:隠岐郡隠岐の島町港町塩口24:電話08512-2-9810
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心と体の相談現場から
デートDVについて
島根大学保健管理センター・河野美江
以前、中学校の養護教諭から「中二の女子生徒が、人前で同級生の彼から殴られた。女子は『私が他の男子と話したのが悪い』と言っている。デートDVだと思うがどうしたらよいか」と相談がありました。関係者が集まり相談した結果、彼女にデートDVの説明をし、親にも事実を話す、ということになりました。彼も衝動を抑えられなかったので、彼の両親と相談し、専門医を受診し投薬が開始されました。教員や保護者が丁寧に関わることで、二人は落ち着いていきました。彼女が殴られながらも彼から離れられなかったのは、両親が離婚し父と祖母と暮らしており、寂しさを埋めるため彼との濃密な関係が心のよりどころになっていたと考えられました。このように若く自由なはずのカップルの間で、デートDVが見られるのは何故でしょうか。「彼女(彼)なら許してくれるはず」と暴力や暴言で相手をコントロールしようとし、相手が自分から離れないことで自分への愛情を計ります。自信のなさ、自己肯定感の低さが根底にあります。
では学校でデートDVを防止するためにはどうすればよいでしょうか。まずデートDVの啓発活動が大切です。すでにデートDVになっているカップルに対しては、まず周囲がデートDVだと気づき、本人たちに説明し、彼らが「縛られている(縛っている)のは、本当の愛情ではないと理解すること」、「お互いに離れていても、独りで過ごせること」を目標に支援していきます。そのためには「あなたは大丈夫」、「彼女も(彼も)大丈夫」と周囲の大人が見守り励ますことが必要です。また、支援者が保護者とじっくり向き合い、保護者が本人に「あなたが大事だよ」と伝え、親子関係を再構築することも必要です。
文面で書くと簡単ですが、実際は非常に困難です。デートDVは暴力への恐怖がある半面、「この人は私がいなければいけない」と自分の必要性が強烈に感じられるため、通常の人間関係を「ぬるま湯のよう」、「愛されているという実感がない」と感じてしまいます。支援者もなかなか変化しない二人の関係に焦り、無力感を抱いてしまいがちです。私は困難な事例には、デートDV防止プロジェクト・おかやまの「恋する2人のまじめな相談」という掲示板を紹介しています。これは掲示板で相談できるシステムで、本人が自分で気づくことを待ちます。デートDVの支援は、支援者が独りで抱え込まずに保護者、専門職と連携して気長に行うことが大切です。今すぐは変わらなくても、本人の力を信じていればきっと変わる・・と私は感じています。島根でも「女の子のためのER」というHPを作成し、カードを高校・大学で配布しています。興味のある方はご覧ください。
1.「恋する2人のまじめな相談」のホームページアドレス:http://www.love-ok.jp/home.html
2.「女の子のためのER」のホームページアドレス:http://www.onnanokonotameno-er.com/
今号のまとめ
児童虐待やDVは、いずれも「家庭」など閉鎖的な空間の中で起きる人権侵害です。それゆえに明らかになりにくく、支援が行き届かず悲惨な結果を招いてしまうということが少なくありません。また、明らかになっていない事例も多くあると考えられます。
児童虐待やDV相談が増えている背景には、家庭を取り巻く様々な環境の変化があるのではないでしょうか。虐待や暴力を受ける者の多くは弱い立場です。声を出せずに苦しんでいるのかもしれません。周りが気づき、支援しなければ、自らや家庭の中だけでの解決は大変困難です。
個人や家庭を支え合うことができる地域社会づくりが望まれます。私たち一人ひとりが人権意識を持って行動し、人権を大切にすることが当たり前の社会をつくっていくことが、児童虐待やDVなどの痛ましく悲しい事件を未然に防いでいくことにつながります。
■8ページ目
開催報告
しまね人権フェスティバル2010
島根県では、身近な人権課題に気づき、学び、考える場として「しまね人権フェスティバル2010」を8月1日(日曜日)に江津市総合市民センターで開催しました。
講演会で、俳優の真屋順子さんは「自分の健康は、自分のためだけではない。傍らにいる人のためにも、本当に命を大切にして、自分の夢に向かって進んでほしい」とお話しされました。また、歌手であり篤志面接委員、保護司でもある千葉紘子さんは「『愛すること』が自分自身を満足させてくれる。家族、友達、全ての人たちを愛することを実践してください」と数々の歌を交えてお話しされました。
人権教育・啓発功労者への感謝状の贈呈
島根県では、毎年、人権教育や人権啓発に顕著な功績のあった個人や団体に感謝状を贈呈しています。今年は7月29日(木曜日)に贈呈式を行い、個人では山根優子さん(出雲市)に、団体では全国膠原病友の会島根県支部(出雲市)、横並びの会(安来市)、特定非営利活動法人多文化共生と人権文化ラス(益田市)の3団体に知事から感謝状が贈呈されました。
12月4日から12月10日は人権週間、12月10日は人権デーです
1948年(昭和23年)12月10日、国連で「世界人権宣言」が採択されたのを記念して、国連では毎年この日を「人権デー」と定め、また、我が国では人権デーを最終日とする1週間を「人権週間」と定め、人権尊重思想の普及高揚を図る集中的な啓発活動が行われます。島根県内でも、松江地方法務局・支局や県、市町村等において様々な取組が行われますのでご参加ください。
島根県の取組
○平成22年度人権啓発ポスターコンクール入賞・入選作品展示
島根県庁ロビー(松江市)12月1日から9日
益田市人権センター(第7回「いのち・愛・人権」展:益田市)12月4日から12日
人権啓発推進センターへご相談ください
人権啓発推進センターでは、人権に関する研修会などを支援したり、暮らしの中で起きる様々な人権問題の相談に応じています。どなたでも自由にご利用いただけます。
研修会などの支援
啓発資料(図書、ビデオ、DVD、パネル)の貸出
松江センター研修室の利用
人権に関する相談
電話、面談、手紙、Eメールで受付
電話、面談の受付時間はセンターの開館時間です。
センターの開館時間:月曜日から金曜日8時30分から17時15分:土曜日、日曜日、祝日、12月29日から1月3日まではお休みです。
Eメールはセンターのホームページからアクセスしてください。
アドレス:https://www.pref.shimane.lg.jp/jinkenkeihatsu/
島根県人権啓発推進センターのご案内
人権啓発推進センター:松江市殿町1番地:県庁第2分庁舎:電話0852-22-7701
西部人権啓発推進センター:浜田市片庭町254:県合同庁舎1階:電話0855-29-5530
お問い合わせ先
人権同和対策課人権啓発推進センター
人権啓発推進センター
〒690-8501 島根県松江市殿町1番地
(事務室は松江市殿町128番地 東庁舎1階にあります。)
TEL 0852-22-6051・6476/FAX 0852-22-9674
jinken-c@pref.shimane.lg.jp
西部人権啓発推進センター
〒697-0041 島根県浜田市片庭町254番地
(浜田合同庁舎1階)
TEL 0855-29-5503・5529/FAX 0855-29-5531