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教育長メッセージ:平成29年度市町村教育長会議

 平成29年度が始まり、恒例の市町村教育長会議を迎えました。

 このメッセージは、県教育委員会と市町村教育委員会との連携や、小中学校との信頼関係の醸成に少しでも役立てば、との気持ちから、私の考えを率直に述べたものです。

 

 私は、微力ながら教育長の職責を担っていく上で、次の三つのことを大切にしています。

 一つは、そもそも教育委員会は教育現場を支えるために存在している、という地方教育行政の原点を常に意識すること。

 二つ目は、合議制の執行機関である教育委員会の運営において、「レイマンコントロール」の意義が最大限発揮されるよう留意すること。

 三つ目は、教育委員会事務局の中の議論を大切にしたい、大いに議論しようということです。

 私は、丁寧な議論を繰り返しながら、教育現場を支える側にある我々の認識の共有化を図り、ベクトルを合わせていくことが大切であると考えています。

 我々自身のベクトルが揃ってくれば、県教育委員会の考える大きな方向性を、教育現場に対して、わかりやすく明確に伝えていくことができるようになる。そうすれば、学校と教育委員会とが、お互いを信頼しながら双方向のコミュニケーションを通じてベクトルを合わせやすくなり、島根の子どもたちのために共に働いていくことができる。そう考えています。

 

 この一年余、様々な議論を積み重ねてきましたが、その多くが、議会答弁等にも反映されましたし、それが更なる論戦を喚起するといったような「議論の好循環」を生み出してきたように感じます。

 このことは、教育課題の「見える化」につながった面もあり、教育に対する県民の皆様の関心を広げる効果もあったと思います。また、長年の懸案も含め、教育課題を前進させていく推進力になりつつあるのではないかと感じています。

 

 前置きが長くなりましたが、最初の話題として「これまでの議論の成果」を幾つか挙げてみたいと思います。

 

 一点目は、島根の子どもたちに身に付けてもらいたい力とは何か。

 それは、これからの変化の激しい社会の中で生き抜いていく力、言い換えれば「主体的に課題を見つけ、様々な他者と協働しながら、答えのない課題にも粘り強く向かっていく力」のことだと考えます。具体的には、論理的思考力やコミュニケーション力、感性・情緒といった、「生きる力」を構成する重要な力を、島根の子どもたちに身に付けてもらいたい。これが県教育委員会の考える「学力観」です。

 また、この「学力観」は、言語活動や体験活動の充実を柱とする現行学習指導要領や、「主体的・対話的で深い学び」を目指す次期学習指導要領と同じ方向性を持つものです。学校と県・市町村の教育委員会が、このような「学力観」を共有した上で、自信を持ってぶれることなく日々の教育活動を実践することが大切であると考えます。

 

 二点目は、島根の子どもたちにそうした力を身に付けてもらうために学校はどうあればよいか。

 先ほど述べた「学力観」のもとで島根の子どもたちの力を育んでいくため、学校では、「授業の質の向上」と「家庭学習の習慣づくり」に重点を置いた取組を進めてもらいたいと考えています。

 また、この取組を進める際には、教職員一人一人の個人の課題と位置付けるのではなく、学校全体の組織的な課題と位置付けた上で、「チーム学校」として取り組んでいくことが大切であり、こうした認識を教職員全体で共有してもらいたいと考えています。

 そして、平素の教育活動の中で子どもの力を把握することに加え、客観的なデータに基づく分析が重要であり、例えば学力調査などを活用して、組織的にPDCAサイクルを回していくことが大切であると考えます。

 

 三点目は、島根らしい教育の魅力とは何か。

 それは、例えば、障がいがあったり困難を抱えていたりすることも含めて、多様な個性のある児童生徒一人一人と丁寧に向き合い、細やかな配慮のもとで大切に育てること。そのような個性と多様性を尊重する教育の実践が島根らしい教育の魅力ではないかと思います。

 また、子どもたちがこれからの社会の中で生き抜いていけるように、「学ぶこと」と「生きること」との関係をよく理解させ、一人一人の人生の進路選択に丁寧に立ち会って、自己実現を精一杯支援していくこと。そのようなキャリア教育と進路指導の実践が島根らしい教育の魅力になるのではないかと思います。

 そして、今述べたような島根らしい教育を、学校だけで抱え込むのではなく、地域社会全体で理念を共有し、学校・家庭・地域の連携の中で実現していくことが、島根ならではの教育の魅力になるのではないかと考えます。

 「教育の魅力化」とは、こうした島根らしい教育の魅力をより一層充実していこうとする考え方のことを言います。

 

 四点目は、「地方創生」を進める上での教育の役割は何か。

 この「教育の魅力化」という考え方について、できるだけ多くの県民の皆様の共感を得ながら、小学校・中学校・高校・特別支援学校という「校種の壁」を越えて一体的・系統的な教育活動を心がけていけば、それは教育という領域にとどまらず、若い世代の人たちに「ここで生きていきたい」と感じてもらい、移住・定住の地として選択してもらうための、「地域の魅力」につながっていくのではないかと思います。

 したがって、「教育の魅力化」を進めることは、島根ならではの強みを生かそうとする「地方創生」の、柱の一つになると考えています。
学校はもちろん教育の場であることが基本ですが、中山間地域や離島の市町村がいわば生き残りをかけて「地方創生」の取組を進めようとしている中で、今や学校の在り方は、学校教育に閉じた自己完結的な発想のみで考えるのではなく、地域の在り方や地域活性化の方向性の中に位置づけて考えていく必要があると思います。

 

 以上、これまでの議論の成果を幾つか挙げてみました。

 これらは、県教育委員会の考える大きな方向性を示したものですが、具体的な取組内容や方法論等については、今後、学校や市町村教育委員会との双方向のコミュニケーションを通じて熟度を高めていきたいと考えています。

 島根の子どもたちに本物の力を身に付けてもらうために、皆さんがこれまで教育現場や教育行政を通して培ってこられた知見や経験を惜しむことなく注ぎ込んでいただきたいと願っています。ご理解とご協力をお願いいたします。

 

 次に、二番目の話題として「特別支援教育の推進」について述べます。

 近年、小中学校においては、発達障がいをはじめとして特別な支援が必要な児童生徒が急増しており、また障がいの特性も多様であるため、教員は、児童生徒の特性に応じた個別の指導・支援を行いながら、学級集団をまとめていくことが求められており、その負担が大きくなっています。

 インクルーシブ教育の観点から小中学校おける特別支援教育を推進するため、従来、非常勤講師配置(にこにこサポート)や少人数学級編制等の施策を講じてきましたが、平成29年度から、小中学校への支援・相談体制を強化することにより、教員の負担軽減と特別支援教育の質的な向上をめざします。

 具体的には、まず、特別支援教育に精通した小中学校等の教員を「支援専任教員」として各教育事務所に配置し、現場が困っていることに対して迅速かつ機動的に相談・支援対応を行います。

 さらに、障がいの実態を踏まえた個別の指導・支援方法に関する専門的な相談・支援を強化するため、「センター的機能」を担う特別支援学校の人員配置を充実し、小中学校に出向いての対応を強化します。

 従来の施策に加えて、こうした新たな支援体制も活用し、小中学校における特別支援教育の充実が図られるようお願いいたします。

 

 次に、三番目の話題として「教職員の健康管理」について述べます。

 これまでも度々お話してきましたが、私は、「教職員のワーク・ライフ・バランスを図っていくことが大切であり、それが島根の子どもたちに質の高い教育を提供する基盤である」と考えています。この基本認識を、県・市町村の教育委員会と学校が共有した上で、教職員の方々の健康管理に取り組んでいきたいと考えます。

 昨年3月、教員を対象とする勤務実態調査を実施しましたが、その回答を集計した結果、多忙感を感じている先生が全体の約84%に及び、小中学校では、資料・報告書の作成や部活動指導に負担感を感じている方が多いという実態が浮き彫りになりました。

 多くの先生が、このような厳しい状況の中、目の前の子どもたちの成長する姿を励みにしながら日々の指導に当たっておられることに、頭が下がります。

 長年の懸案となっているこの課題は、教職員定数が制約される構造的問題の中で生じており、その打開は容易ではありませんが、県・市町村の教育委員会と学校とが共通認識を持って、一歩ずつでも着実に前進を図っていこうという意志を明らかにすることが大切であると思います。

 一方、多忙・多忙感の原因は、それぞれの学校が抱える課題によって影響を受ける側面もあります。勤務実態調査の集計結果については、県全体の状況とそれぞれの学校の状況を比較できる形にまとめ、各学校にフィードバックしていますので、実効性のある対策を進めるため、各学校において実態分析に基づいた検討を行ってもらうことが大切です。

 各学校においては、昨年度から導入したストレスチェックや、校内衛生委員会等による組織的な対応、評価システムを通じて行われる教員との面談や支援など様々な手法を工夫しながら、教職員の健康管理と職場環境の改善に向けて精一杯努力していただきたいと切に願うものであります。

 なお、こうした対策を進める大前提として、まず教職員の長時間勤務の実態を正しく把握することが重要であり、県立学校における調査方法も参考にされ、精度の高い実態把握に努めていただくよう、併せてお願いいたします。

 

 最後の話題として、「島根の教職員に対する信頼」について述べます。

 しっかりと子どもたちに向き合い、細やかな配慮のもとで、一人一人の個性を大切にしながら、丁寧に子どもたちを育むという島根らしい教育は、島根の教職員の熱意とひたむきさ、まじめさによって日々教育の現場で実践されています。また、先輩の教職員から後輩の教職員へと脈々と受け継がれて、島根の教育の良き伝統となっています。そして、このことは未来へとつながっていく島根ならではの貴重な財産になると感じます。

 私は、島根の教職員を信頼しています。

 島根の教育には様々な課題があります。しかし、課題があることは、島根の教育がダメだということでは決してありません。

 冒頭述べたように、私は今、島根の教育をめぐって「議論の好循環」が生まれ、教育課題の「見える化」が進み、教育に対する県民の皆様の関心が広がってきたと感じています。そして、このことが、長年の懸案も含め、教育課題を前進させていく推進力になりつつあると考えています。

 課題に対処しつつも、島根の教育の良き伝統を見失うことなく、島根らしい教育の魅力をより一層充実していくこと。この大きな方向性を、教育現場と県・市町村の教育委員会とで共有したいと思います。

 

 以上、大きく四つの話題について、私の考えを率直に述べました。

 

 島根の教育をめぐっては、教職員の服務規律の徹底、いじめや不登校の問題、子どもの貧困問題、高校入学者選抜制度の総括など論点は数多くありますが、これらを含め、諸課題の詳細については所管課長から別途ご説明する予定です。

 

 学校と県・市町村の教育委員会が知恵を出し合いながら、島根の子どもたちのために共に働いていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 


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