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島根県におけるNPO活動活性化のための提言

 

建設環境委員会が、平成16年12月に行った政策提言の内容は、下記のとおりです。

「島根県におけるNPO活動活性化のための提言」

■はじめに

阪神淡路大震災において多くのNPOやボランティアが活躍し、復興の大きな力になったことを契機にボランティア活動の重要性が認識され、少子・高齢化の進展、価値観や行政ニーズの多様化が進む中、住民自らが自発的に参加し、社会的なニーズや地域の課題解決に取り組む公益活動に大きな期待が寄せられている。
平成10年に「特定非営利活動促進法(NPO法)」が施行され、一定の条件の下、営利を目的とせず公益的な活動を行う団体が法人格を取得できるようになった。
平成16年10月末現在のNPO法人は、全国では19,155法人、本県においては84法人を数え、なお増加傾向にある。
この背景には、高齢化の進展による地域内の助け合いや、活き活きとしたまちづくりなどの身近な課題について、行政に頼るだけではなく住民が自発的・自主的に自らの手で解決していこうとする気運の高まりの現れであると思われる。
本県では伝統的に、出雲、石見及び隠岐のそれぞれの地域でその地域ならではの助け合いの心を持って人々が暮らし、県民のアイデンティティのなかに島根ならではの相互扶助の精神が息づいている。
近年では、伝統的なコミュニティ活動だけではなく、環境や文化など特定の課題に地域の住民が主体的に取り組んでいる団体も増えてきている。
県において新たに策定される総合計画においても自立と協働を掲げ、計画推進の基本姿勢にも、企業、NPOなど各主体が自主的、積極的に参画・協働し、新しい島根を築いていくための共通目標とすることとしている。
地域づくりにおいては、住民自身によるNPO活動と行政とが共通認識のもと連携をしながら取り組んでいくことが不可欠であり、今後、具体的な取り組みを進めていく必要がある。
そこで、建設環境委員会として、県内外のNPOの現状と他県の先駆的施策などの現地調査などを行い、県とNPOとの協働を一層促進するための提言を行うこととした。

現状及び課題について
ボランティアやNPO活動の促進については、議会として平成14年度に提言を行ったところであるが、その後、県においては「NPO活動推進室」の設置や島根ふれあい環境財団21に「NPO活動支援センター」を開設する等、活動支援のための体制が整備された。
また、設立支援助成制度や各種の県税にかかる課税免除制度の創設等、法人化促進策が講じられたところである。
その結果、県内のNPO法人の認証数が大幅な伸びを示したところであり、その活動分野も、当初多数を占めた「保健・医療・福祉」の他に「環境」や「まちづくり」に取り組む団体が増えるなど、幅広いものになりつつある。
本委員会では、本県におけるNPO活動のさらなる活発化を目指すとともに、NPOが持つ先駆性や専門性、現場性等を活かした行政とのよりよい協働を促進していくための方策を探るため、平成15年度、16年度と県内の各種NPOの活動実態について調査を行うとともに、県外の先進的な取り組み事例についても調査を行った。
その結果については概ね次のとおりである。

県内のNPOの現状と課題
現在、県内のNPO法人は平成16年10月末現在で84法人となっている。
人口10万人当たりの法人数は全国平均が13.73に対し、本県は11.10であり、30番目に位置している。
県内のNPO法人の主たる活動分野で定款に掲げているものは、「保健・医療・福祉」が最も多く58法人(69.0%)、次いで「まちづくり」51法人(60.7%)、「子どもの健全育成」38法人(45.2%)、「環境の保全」33法人(39.2%)などである。
県内の各種NPOを調査した結果、概ね各団体が抱える課題としては次のとおりであった。
(1)安定した資金の確保が困難であること
(2)NPO法人組織運営のための会計、税務、労務などの知識が不足していること
(3)NPO活動への参加協力者が不足していること
(4)行政とのパートナーシップが十分に図られていないこと

他県の先進的なNPO施策について
高知県では、NPO活動促進のため、関係主体が果たすべき役割分担や共通認識を明らかにすることを目的として、平成11年に「高知県社会貢献活動推進支援条例」を制定した。更に、全庁的なワーキングチームを設置し、県が行う事業の企画をNPOから提案を受たり、県に代わって事業を行うNPOを公募し事業を委託することで具体的に協働を実現している。
また、行政による資金だけでなく、公益信託方式基金の設置による民間資金の活用も図り、NPOへの財政支援を行っている。
徳島県においても、平成16年に「徳島県社会貢献活動の促進に関する条例」を制定し、免税措置や人材育成など県が行う施策を明確にするとともに、個々のNPOに組織運営の実務等を指導するためのアドバイザー派遣制度を創設している。
 

島根県におけるNPO活動活性化のための提言
本県においてもNPO法人の増加など、県民自身による自主的な取り組みが各地で活発化している。
NPOと行政の協働のあり方については、平成16年1月に「ガイドライン」を策定し、協働の基本的な考え方や推進方策が示され、NPO活動の活性化のために必要な新たな環境整備が進められている。
今後、県とNPOが連携や協働をしながら新たな島根づくりを実現していくためには、これらの基本的な考え方を踏まえつつ、取り組みを具体化していく必要があり、そのためには、
1-NPO活動の促進に関する基本方針の策定
2-NPO活動促進のための環境整備
3-様々な主体の参画・協働による県政運営(県の推進体制の整備)
について必要な措置をとるとともに着実な推進を図っていくべきと考える。
以上のことを踏まえ、具体的な施策として次の事項について検討されたい。

NPO活動の促進に関する基本方針の策定
いま、地方分権の進展や市町村合併の実現等、自立した地域づくりが求められている。
NPO活動は、住民同士の相互扶助のもとに地域の課題解決のために住民が自主的・自発的に取り組んでいるものであり、活動を通じて地域の自治力が向上する効果があり、ますます社会的存在感を増していくものと考えられる。
今後、県民や企業がNPOに対する理解を深め、活動への参加や支援が一層活発化していくためには、関係主体が果たすべき役割分担や共通認識を持つことが重要である。
(1)NPO活動促進に関する条例の制定
NPO活動を活発化していくためには、NPO活動に関する意義や基本的な考え方、関係主体が果たすべき役割分担や共通認識、NPO活動推進のための方策、県の推進体制等を明らかにする必要があることから、これらを内容とするNPO活動促進に関する条例の制定が必要である。

NPO活動促進のための環境整備
これまで、県民の間には、公共サービスの提供についてその多くを行政の手に委ねるという考えが強く、行政側にも公共的なことは行政が担うという意識があった。
しかし、社会的課題や多様化・複雑化する県民のニーズに、行政だけできめ細かく対応していくことは、平等性等を原則とする行政の限界や財政の危機的状況などから困難になってきている。
最近のNPO活動の広がりに見られるように、県民自らが立ち上がって行動し、社会の担い手として積極的な位置づけを望んでいる一方で、依然、県民理解が十分に得られていなかったり、組織の財政基盤が脆弱であったり、組織運営能力が不足しているなどの課題を抱えていることから、NPO活動
促進につながる環境整備を行えば一層の活発化が期待できる。
(1)NPO活動に対する県民理解の促進
NPO活動の発展のためには、地域住民の理解が広がり活動への参加や会員としての参加、資金提供等の協力が拡大していくことが不可欠である。
NPO法では、自らの法人情報をできるだけ公開することによって住民の信頼を得、住民によってNPO法人が育てられるべきとの考え方がとられている。
しかしながら、県内の多くのNPOにおいては、活動状況等の広報手段や能力が乏しい状況にある。
基本的には各団体の自主的な取り組みを促していくべきではあるが、県においても県のホームページなど様々な機会・手段を活用して、活動等に関する情報提供やNPO法人の事業報告書の公開等の可能な手段で県民理解の促進や活動への県民参加を促す必要がある。
(2)しまねNPO活動支援センター機能の充実
「しまねNPO活動支援センター」では、広くボランティア団体をはじめとするNPO活動を支援する「中間支援センター」として、会議室の提供・コピー機や印刷機・紙折り機等の利用サービスのほか、活動団体からの相談に応じたり、団体ニーズに応じた各種講座等の実施により、組織運営の基本的な能力を向上させる取り組みを行っている。
今後、組織の能力を更に向上させ、活動が自立し且つ継続的なものになるためには、従前の研修事業に加えて、資金集めや広報活動・事業計画の立案など、団体個別の課題に対する解決手法が修得できるマネジメント研修や、研修終了者による他団体への支援活動の実施などが効果的と思われるので、その実施について検討されたい。
(3)財政基盤の強化
NPOの活動資金は会費や寄付金を基本としているが、その資金規模を拡大していくことがなかなか困難であるため、財政基盤が脆弱な団体がほとんどである。
今後、活動をより活発化していくためには、NPOの特性である自主性・自立性を損なうことなく、活動資金を確保していく必要があり、NPOのニーズにもとづく資金調達等のマネジメント能力向上のための支援や、NPO活動を支援していくため様々な財団や企業などが行っている各種助成制度をより活用しやすくするために情報の一元的な提供を推進されたい。
(4)組織運営能力の強化
NPOにとって、会計・税務、労務管理等の実務者の人材育成は適正な事業運営及び社会への説明責任を果たしていくという点からも重要な取り組みである。
このため、現在行われている会計等の一般共通的な研修方式に加えて、専門知識や技術を個別に指導する「法人運営アドバイザー」のような制度を検討されたい。
(5)活動拠点の拡大
NPOの中には、事務局を個人の自宅においたり、会議場所の確保が十分にできない団体もあるなか、NPOの活動スペースとして県が提供している施設は県東部の「しまねNPO活動支援センター」1箇所のみである。
一方、県の地方機関見直しや市町村合併により、各地域において遊休化する公共施設等に空きスペースが生じるものと考えられるところである。
NPOの活動範囲は地域密着型のものがほとんどであり、県下各地における活動支援や施設の有効活用という観点から、これらをNPOに提供していくことができないか検討されたい。

 

3様々な主体の参画・協働による県政運営(県の推進体制の整備)
本県では、これまでの「縦割り主義」「前例重視」「コスト感覚の欠如」などさまざまな行政批判に対し改革していかなければならない現状において、平成14年度から「新行政システムの推進」という名のもとに取り組みが始まっている。県行政のあり方を見直し、NPOを社会の軸の一つに据えた上で、県行政の構造改革を進めていこうとするものであり、新たに策定される「総合計画」においても、「様々な主体との協働」を位置づけている。
協働に対する基本的な考え方は、「NPOと行政の協働のあり方検討会」の報告をもとに、平成16年に「NPOと行政の協働のためのガイドライン」が策定され、協働を通じて県行政への県民の意見反映や地域の自治力向上を図られているところである。
このような状況を踏まえ、効果的な地域課題の解決のために新たな視点での施策の構築や全庁的な推進体制の整備が必要である。
(1)NPOからの施策提言の推進
豊かな地域社会の形成を目指し、地域課題を解決するためには、NPOに対し、県行政への参画を進め、地域の実態に即した、且つ従来の発想を超えた施策の提案を受けることも必要である。
このような取り組みを進めていくうえでは、新たな対応が必要となっている行政課題など、行政がテーマだけを示して企画案を公募し事業に繋げていくことなど、NPOとともに事業を確立していく手法でより効率的・効果的な事業実施ができると思われる。
これにより、「社会は自分たちの意思でつくるもの」という意識が醸成され、より良い地域づくりの提案がNPOから提示されることが期待される。
例えば、「リサイクル推進運動」等県民の意識改革や具体的な行動が不可欠なものや、「安全なまちづくり活動」や「道路・河川の愛護活動」のように住民間のマンパワーのネットワークづくりが求められているもの、「福祉移送サービス」等地域における県民同志の助け合いなどのきめ細やかなサービス提供システム構築などについては、県とNPOが政策形成段階から協働を行うことにより、NPOの多様なノウハウや知恵を活かす先導的協働事業として事業効果の向上が期待できる。
提出された提案や協議内容については、その経過を広く公開することが重要であり、その情報が県民やNPOの意識の向上につながり、現実に即した提案創出のきっかけになると思われる。
(2)県からNPOへの事業の公募委託化
県が実施している事業のうち、NPOの持つ専門性や柔軟性、地域性を取り入れることで、県が提供する行政サービスの質の向上が期待できるものについては、NPOへの公募委託化を検討されたい。
例えば、「環境保全」や「子育て」等普及啓発のため、多くの県民の参加が望ましい事業や、「子どもの心の問題」「高齢者の自立支援」など柔軟できめ細かなサービスが必要とされる事業など、委託になじむものと思われる。
このような取り組みは、県事業の効率化のみならず、NPOの活躍の場を広げ、NPO活動の活性化にもつながるものと期待される。
(3)協働促進のための部局間連携体制の整備
行政とNPOの協働を具体的に進めていくうえでは、提案等への組織横断的対応が必要となる場合があること、また、協働の取り組みを統一的な考えのもとで全庁的に推進していく必要があること等から部局間の連携が不可欠であり、中心となる部局において早急に体制整備を図られたい。
また、協働結果の評価やそのフィードバックを行い全庁的に共有することを検討されたい。

平成16年12月10日

島根県議会建設環境委員会
委員藤山勉
副委員島田三郎
副委員井田徳義
田中八洲男
石倉俊紀
野津浩美
渡辺恵夫
原成充
森山健一
細田重雄

 

 



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