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農水商工委員長報告

 

   農水商工委員長報告     平成25年2月定例会(3月21日)

 

 農水商工委員長報告をいたします。

 今定例会で農水商工委員会に付託された議案のうち、既に3月12日に報告いたしましたものを除く議案の審査結果等について報告いたします。

 

 本委員会に付託された議案は、「平成25年度島根県一般会計予算」など予算案8件、「使用料及び手数料の額の改定等に関する条例(所管分)」の条例案1件及び「直轄特定漁港漁場整備事業に対する県の負担について」など一般事件案3件であります。

 これらの議案について、執行部に説明を求め、慎重に審査いたしました結果、いずれの議案も全会一致をもって、原案どおり可決すべきとの審査結果でありました。

 

  次に、議案の審査過程において委員から出された質疑、意見等のうち、平成25年度当初予算に関する主なものについて御報告いたします。

 

 まず、委員から農林水産部の予算全般について、経済対策に関する平成24年度補正予算と合わせると大きな額になり、予算の執行にあたっては市町村との連携が重要であるので、連携を徹底して欲しいとの意見がありました。

 

次に「石州瓦産業経営基盤強化支援事業」についてでありますが、委員から、近年販売実績が低迷している石州瓦の更なる販売促進に向けた努力をして欲しいとの意見がありました。

 

 次に、報告事項など所管事項調査に関連したものについて申し上げます。

 まず、農林水産部所管事項についてであります。

執行部から第10回和牛能力共進会出品対策における検証結果と具体的対応策について説明があり、委員からは、すばやく検証し対応策を打ち出したことは非常に良いことであり、このような取り組みが結果につながると思うので期待したいとの意見がありました。

 

次に、執行部から木質バイオマス発電事業化支援について説明があり、委員からはこの支援内容で経営的に成り立っていくのかとの質問がありました。

これに対し執行部からは、国の調達価格等算定委員会の試算によると採算がとれる見込みであるが、全国で事業化に至った例は1カ所のみで、実証例が乏しいこと、また、燃料の長期、安定調達にリスクを伴うことも想定されることから、国の制度を利用して支援をするとの説明がありました。

さらに、委員から、燃料用の原木やチップが安定的に供給されるのかとの質問があり、執行部からは、製材用、合板用の原木増産に伴う林地残材の発生量を2020年には17万7千トンを見込んでおり、必要な量を供給できる。またチップ生産については、県内に12の加工場があり、バイオマス利用に向けてチップ加工機械の増設や、高性能林業機械の整備が進んでいるとの説明がありました。

 

次に商工労働部所管事項についてであります。

執行部から神話博しまね公式記録(案)について説明がありました。

委員からは、神話博は多くの県民の皆様の参加を得て、来場者の満足度も高く、手作りの温かみを感じることができるイベントであった。また県内各地でも様々な催しに取り組まれた。来年度の出雲大社平成の大遷宮に向けて、引き続き島根の魅力を情報発信してほしいとの意見がありました。

 

さて、本委員会では、昨年度から「農業・農村の持続的な担い手育成の方向性について」をテーマに現地調査を含め、調査活動を行ってまいりましたので、その結果をご報告いたします。

 

あらためて申し述べるまでもなく、県土の大部分が中山間地域である本県にとって農業は基幹産業であり、食料の安定供給を担っています。また、本県の誇りである美しい里山景観は、そこに農業を営みとする県民の日々のたゆまぬ努力によって形成されていることを決して忘れてはなりません。すなわち、農業を守ることは地域を守ることであり、島根を守ることであります。

しかるに現状は、どうでしょうか。農家の人口は、20年前の平成4年には20万人を超えていましたが、現在は9万人に半減し、約4,000ある農業集落のうち、担い手が存在しない集落は約1,000集落に及びます。また、農業就業者の平均年齢は、平成22年の統計で、全国平均の66歳に対し、本県は、ついに70歳を超えました。このような現状を放置すれば、島根はやがて荒れ放題の耕作放棄地に鳥獣が跋扈する、陸地にある「無人島」となりましょう。今は、まさに島根の農業・農村を後世に残していく最後の段階なのであります。

県は、これまでに農業・農村の担い手を育成、確保するためにさまざまな施策を講じてきました。このなかには、全国に先がけて集落営農の組織化を進め、営農活動にとどまらず地域コミュニティーの維持のため、地域貢献活動を担う法人の組織化も行ってきました。また、新規就農者を確保するため、「半農半X」と銘打ち、UIターンで都市部等から新規就農してもらうための取組や、民間の人材派遣会社と連携し、県内の集落営農組織が働き手を雇用しやすい仕組みづくりも行ってきました。こうした施策の数々が生み出されたのは、島根の農業・農村を守るため、行政として積極的にその責任を果たそうとした努力の結果であり、議会としても大いに評価するものであります。

しかし、こうした施策の一つひとつは、今の島根の農業・農村に対し、10数年間の延命措置を図るものに過ぎず、平均年齢70歳の農業従事者が近い将来、農業を止められたときを見越して、次の世代が農業を自らの職業として着実かつ持続的に引き継いでいくという視点が弱いと言わざるを得ません。

農水商工委員会では、こうした観点から、県内で意欲的な取組を行う事例や、全国の先進事例を調査し、検討を進めてまいりました。以下、調査等を通じて得られた成果も踏まえ、報告します。

 

まず、第一に県の施策の発想転換が必要です。これまで実施してきた「地域を守るため、今ある農業の維持存続を図る視点」から、「積極的に農業の次世代リーダーを育成する視点」への転換です。このための施策の方向性として、3点提案します。

 

一つは、県内の教育機関と連携し、若いうちから農業の担い手となる意識づけを行うことです。将来、若者に自分の職業として農業を選択してもらえるよう、農業系の専門高校のみならず、普通科高校等も含め、生徒が、認定農業者など大規模経営を実践し、収益を上げている若手農業者から直接話を聞いたり、その農家等で短期のインターンシップ等ができる仕組みを農林水産部と教育委員会が連携して構築し、県が高校生など若者と農業者をつなぐ役割を果たしていくことを提案します。また、現在、農業系の専門高校等においては、夏休みに中学生を農業の実習施設や実験室に招待し、実際に体験してもらうなど、様々な工夫を凝らして、高校入学前から農業に関心を持ってもらえる取組みを実施されておりますが、こうした取組みを一層充実されるよう要望します。

 

二つ目は、農業に対し高い意識を持った若者のために、農業経営者としてステップアップしてもらえるよう、県内の高校と高等教育機関等をつなぐシステムを確立することです。現在、島根大学大学院生物資源科学研究科では、「地域産業人育成コース」を置き、県と連携しながら地域でのインターンシップ活動を行い、企業マインドをもった第一次産業従事者の育成に取り組まれています。また、県立農林大学校では、今年度、有機農業専攻を設置し、県内の先進的な有機農業農家の協力も得て、高付加価値な農産物を生産できる人材育成に取り組まれています。このような県内の高等教育機関等における農業リーダーの育成の取組みに対し、県としても協力し、意欲の高い若者を継続的に送り込めるよう、県内高校と高等教育機関等の連携を強化すべきです。

 

三つ目に、県が地元自治体やJA等と協力して人材育成のための塾を設置し、農業の次世代リーダーの育成に乗り出すことを提案します。近年、雇用不安を背景に、農業に関心を持つ若者から「機会があれば島根で農業をやりたい」との相談が増えています。しかし、そうした若者は、どのようにしたら農業や地域に関われるのかが分からず、農業生産のための技術習得や経営開始資金の調達に悩むケースが多いのが実情です。また、農業は自然条件に左右されリスクを伴うものですが、そうしたリスクを始めから覚悟している若者は少数です。

 

そこで、研修中の基本給を一定期間保証する条件で就農希望者を雇用する人材育成のための塾を設置します。この塾では、就農希望者の意欲や適性等を見て、塾生となるにふさわしい者を選抜した上で、塾生を県内の農業法人等へ派遣し、そこでの活動を通じて必要な農業技術を学ばせます。また、県内外の先進的な農業経営体等での研修等を通じて、将来の就農・自立に不可欠な経営ノウハウを身に付けさせます。

 

さらに、現在、県内には、JA主導型の農業法人や、会社経営を行いつつ積極的に担い手育成に取り組む法人組織があります。これら一定レベルの担い手育成に取り組まれている組織を人材育成のための塾のサテライト校と位置づけ、塾の指導のもとに人材育成できる体制を県内各地で構築するよう提案します。

 

県は、塾の運営に対して一定の経済的支援を行うとともに、その経営に対して指導監督を行います。この施策は、農業で身を立てることのできる経営感覚に富んだ農業経営者を県内で持続的に育成することが最大のねらいでありますが、同時に塾生の研修という形で既存の集落営農組織へ働き手となる人材を送り込むという、両面の効果を生み出そうとするものです。

 

次に、地域を守る視点からの担い手育成・確保についても、3点提案します。

 

一つは、中山間地域対策プロジェクトチームによる「しまねの郷づくりカルテ」と連携した人材育成です。

現在、県の中山間地域対策プロジェクトチームでは、県内中山間地域227地区を分類し、それぞれの地区に合った支援を行うための「郷づくりカルテ」を作成しています。このカルテには様々なデータが組み合わされており、客観的にそれぞれの地域の現在、そして将来の問題点を示すことができる工夫がなされています。これら各地区の維持に欠かせない若年層が、地域の担い手となるよう確保、育成することは重要な課題であり、このカルテを活用し、農業・農村の担い手育成と中山間地域対策との連携を図りながら人材育成の方向性を探り、示していかれることを提案します。

 

2つ目は、障がい者と農業経営体をつなぐ農福連携を進めるという提案です。農福連携は、農業経営体と就労支援施設が作業委託契約を結び、障がい者が農作業を請け負う方式のほか、一般就労につなげることも目指すものです。この農福連携は、農業経営体にとっては担い手の確保、障がい者にとっては工賃の向上と就労の場の確保につながるもので、双方にメリットがあります。これを積極的に推進することは、農業経営体で働く者を継続的に確保できるようになるとともに、障がい者の生活を守ることにつながります。

 

3つ目は、県内の会社退職者をメインターゲットとした農業参入しやすい仕組みをつくることを提案します。今年度、松江市古志町にある農事組合法人を調査しました。そこの法人では、28戸の農家が約21ヘクタールの農地で米や小麦を栽培し、二毛作としてソバや津田カブを栽培されていました。大型の農業機械の利用もしやすいよう圃場は整備され、中山間地域と比較すれば鳥獣被害も少ない、まさに島根の中でも農業適地と言えるような場所でした。そのような場所でも担い手確保が深刻であり、今年度、人材派遣会社から派遣従業員を受け入れていました。組合の方の話では、「会社の定年退職者が担い手となってくれることを期待していたが、最近では農業をやってもらえない」とのことでした。

確かに、若者が進んで農業を志してもらえるようになることは今後の目標であり、先ほど提案した施策によって若い担い手が持続的に生まれることは必要ですが、一方で、地域を守るために、会社退職者が、第二の職業選択を行う際、農業を積極的にその対象としてもらうための仕組みも必要ではないでしょうか。県として、民間企業と連携し、退職者への情報提供の強化など、農業参入しやすい仕組みをつくることを提案いたします。

 

昨年、「農業の担い手確保」を検討した県庁の若手職員が、知事に政策提案を行いました。この提案の中では、農業が産業として維持・発展を図るためには世代交代が必要不可欠であるとし、若者の農業への理解醸成や、雇用就農対策、担い手の地域への受け入れ、初期投資の負担軽減策、農福連携の推進にわたり、15項目の具体的な事業提案を行っています。いずれも、本委員会が考える担い手育成の基本的方向性と同じ考え方に立つものであり、執行部におかれては、これらの若手職員の提案についても、積極的に事業化を検討されるよう望むものであります。

 

以上、本委員会の調査テーマに関する調査結果といくつかの政策を提案いたしましたが、終わりに、今後の本県農業の発展に向けた担い手育成に対する本委員会の考えを申し上げます。

 

人口減少、少子・高齢化が進む中、10年、20年後の島根をどのようにしていくのか。グランドデザインを描き、そのための具体的な施策を示し、関連する全ての機関が目標達成のために試行錯誤しながら継続的に取組みを重ね、成果を出していくことが今求められています。そのためのアクションはもう待ったなしです。まず、しっかりした島根県のグランドデザインを描くこと。その上で県内すべての産業、地域において、その振興を成し遂げる人材を育成することです。我々の委員会が提案する農業・農村の担い手育成は、その一部でしかありません。我々は、このことを真剣に考え、実行し、将来に残さなければなりません。執行部におかれては、今は、危機的状況にある島根の農業・農村を守る最後のチャンスと心得ていただき、積極果敢に対応していただくことを強く望むものであります。

 

最後にTPPの交渉参加に関して一言申しあげます。

15日、安部首相からTPPの交渉に参加することが正式に表明されました。

当委員会におきましては、関連する農業分野において、委員間協議等で、情報が不足する中でのTPPの交渉参加を不安視する意見が委員より多数出されました。

特に本県は県土の8割以上が中山間地域であり、農業が地域の生活基盤を支えています。狭隘な土地の多い中山間地域では零細な農家が多く、農業の衰退は地域社会の崩壊に直接繋がります。

政府は、国益を守るという国民との約束に対し、真摯に対応する義務があります。

首相からは強い農業、攻めの農業、多面的機能を守っていくための対策やメニューについて、しっかりと議論していくとの発言もありましたが、政府に対しては、日本の産業に影響のある農産物などの主要品目を関税撤廃の例外とするよう最大限の努力をするとともに、今後の交渉にあたっては、きちんとした情報開示を行い、地方、そして農業者と十分議論をしたうえで慎重に判断をされることを強く望みます。

また、当委員会といたしましても、今後の動向を注視して参りたいと思います。

 

以上、農水商工委員会における審査及び調査の概要等を申し述べ、委員長報告といたします。

 

 

 



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