• 背景色 
  • 文字サイズ 

平成23年度再評価委員会からの意見具申

平成23年11月11日

島根県知事溝口善兵衛様

島根県公共事業再評価委員会

会長藤原眞砂

公共事業の再評価について(意見具申)

 

 本委員会は、島根県の公共事業の再評価について慎重審議を重ねた結果、下記のとおり意見を取りまとめましたので、これについて意見具申いたします。

 なお、県におかれましては、本委員会の意見を尊重し、公共事業の推進にあたられるよう要望いたします。

 

(記)

 

1平成23年度島根県公共事業再評価の結果の総括

 

 島根県では公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため平成10年度から再評価制度を実施している。事業の再評価の重責を担っているのが第三者機関である「島根県公共事業再評価委員会」である。島根県は県財政の再建のために、平成20年度から23年度までの4年間を集中期間に充てており、公共事業費の縮減は、人件費の圧縮とともに歳出抑制のための大きな柱である。委員会もそのような県の大きな方針を念頭に置いて、公共事業の再評価に臨んだ。

 本年度の再評価委員会の審議は未曽有の惨状、惨劇を呈している3.11東日本大震災の報に日々接する中で行われた。県民の生命、生活、財産の安全、安心を高めるインフラの整備、構築を目指す公共事業の意義を再認識し、またそれに関わる者としての職責、使命の重さに一層の自覚を促された。

 本年度、委員会に付託された事業再評価の対象事業は、土木部事業8件、農林水産部事業1件、計9件である。これらの個別事業に対する委員会としての意見は別記されているので、ここでは委員会メンバーが共有した問題意識を基盤に「総括的意見」を述べる。

 

(総括的意見)

 本委員会は島根県が主体となり実施している公共事業を、ア.事業の進捗状況、イ.事業を巡る社会経済情勢等の変化、ウ.事業採択時の費用対効果分析の要因の変化、エ.コスト縮減や代替案立案等の可能性の視点から再検討し、その事業継続の適否を評価することを目的とし、審議を行った(島根県公共事業再評価実施要綱第3条:再評価の視点)。

 以上の視点を確認しつつ、総括的意見を述べる。

 

(1)防災事業に対する期待の高まり--事業を巡る社会経済情勢等の変化

 「事業を巡る社会経済情勢等の変化」に視点を合せた場合、防災事業に対する県民の期待には大きな高まりがあると見なせる。とりわけここ数年、県民は局地的集中豪雨等々、異常気象を経験することが多くなった。これに伴う不安はかつて大きな被害を受けた地域においては尚更のことと思われる。これは本年の東日本大震災により決定的なものとなり、また、今夏の台風による各地での集中的豪雨被害とも相まって、人々の不安を亢進させている。これにともない、国民の防災意識は一気に高まっている。治水、治山等の防災公共事業に対する県民の期待は極めて高い水準にあると考えられるのである。

(2)より善き公共事業再評価を目指す様々な試み

 未曽有の大地震、津波に晒された東北太平洋岸の人びとの悲惨な境遇を想い、われわれは県民の生活、財産の安全、安心を高めるインフラ整備に資する公共事業の意義を再認識し、事業評価を行った。また、本県において再評価制度が発足した平成10年からすでに10余年に及ぶ制度運営経験の蓄積、また、本委員会の主要メンバーの専門性、練度の向上も相まって、公共事業再評価制度の主旨に沿った創意工夫も試みられた。

 

1)防災公共事業の十全を期して--防災避難誘導の在り方(ソフト)に視点を拡大

 「防災事業に対する期待の高まり」(社会経済情勢の変化)を踏まえ、委員会ではこれまで表立って論じられることがなかった想定外の事態に対する避難誘導の体制の整備状況に対しても論議がなされた。防災を使命とする公共事業は県民の生命、生活、財産を守る役割を担っている。しかし、防災事業の使命はハードの土木事業だけでその役割を全うできない。県民の避難誘導制度というソフトの工夫もこれに組み込まれていなければならない。想定外の自然災害が生じた場合の県民の避難誘導の手順、組織が適切に整備されているか否かの観点からの評価の必要性が指摘された。今年度の砂防、地すべり対策事業[社会資本整備総合交付金事業(砂防)寄居谷川、社会資本整備総合交付金事業(地すべり対策)下津戸]に対しては、こうした視点も組みこみ、再評価を試みた。事務局提供の資料に依れば、ソフトの整備も周到になされている、ということであるが、さらに万全を期して頂きたい、というのが委員会の期待である。

 

2)過年度の再評価審議箇所のフォローアップ調査の実施

 本年度は隠岐の3件の事業を委員会全体として現地調査し、詳細審議に付した。隠岐の事業に関しては、日程的に現地調査に無理があるために詳細審議箇所から除外されたことがあった。しかし、今年度は、長年の懸案であった隠岐の県事業に関する現地調査を実施に移すことが出来た。このことは、特筆すべきことであった。しかし、それ以上に意味のある委員会の再評価活動は、すでに審議した隠岐の事業箇所のフォローアップ調査であった。これは再評価を実施した過年度の公共事業のその後の実施経緯を確認し、かつての再評価の妥当性を吟味する、という意義があった。隠岐の過年度事業に関して、評価の妥当性を現地にて確認できたことは幸いであった。

 過年度に再評価を行った事業のモニターは、事業の効率性、透明性の検証を初期の目的とする再評価制度の主旨に合致するものである。

 再評価後の事業の視察、検証は評価者である委員会、被評価者である事業者の間に適切な緊張を導入する意義もあった。それは委員会の責任ある確かな再評価審議、事業者の責任ある事業遂行を促す機能を持つ。過年度の再評価対象事業へのモニターは今後とも心がけたい、というのが再評価委員の総意である。

 

3)道路事業評価の新手法の導入

 従来、道路事業に関し、国が定めた評価項目(走行時間短縮効果、走行経費減少便益、交通事故減少便益)に従えば、費用対効果の数値は人口数、車両数が多い地域ほど高い数値が出ることがあった。人口が減少傾向にある島根県では道路事業に関して、数値が低下傾向を辿ることは必定であった。たとえそれが県民の生活基盤の維持・確保、救急医療アクセス、また観光に不可欠である事業と見なせるものであっても、国の道路評価手法に従えば低い数値しか得られなかった場合、本再評価委員会が当該の県の道路事業の存続に関係し、中止の決断を下す場合も出てくるのではないか、と昨年度の意見具申において懸念を表明した。さらに、島根県の特性を考えた場合、道路事業の観光効果、生活・生命線向上の便益を積極的に評価する手法を考える時期が来ているのではないかと述べ、県独自の費用対効果項目を検討・設定する委員会を発足させることを提言した。

 提言を含む意見具申が最終の再評価委員会で承認された後、平成22年10月21日、「島根県道路事業評価手法検討会」が早々に立上げられた。そして、23年4月には、道路事業手法検討会により「島根県道路事業評価マニュアル(案)」が纏められた。これは「道路に求められる多様な役割に注目し、中山間地域における安全、安心の確保や地域産業の振興など島根県の実情を適切に反映する新たな道路事業評価手法について検討を行った」結果を基に作成されたものである。

 これは1.貨幣換算が可能な項目を対象にした「費用便益比」2.社会的効果、3.不完全代替ルールを評価の柱とする。費用便益比としては、国のマニュアルにある基本3便益に加えて新たに2つの便益が追加されたが、その一つとして追加されたのが「救急医療アクセス向上便益」である。また、「社会的効果」としては、貨幣換算が難しいもの、あるいは既存便益と二重計測の危険性があるものが評価対象になったが、これには「観光地へのアクセス向上」が対象項目に入っている。また、「不完全代替ルール」によって「県が政策的に行うべき事業(県による道路整備以外で解決手段がない事業)、公平性の観点から行政として最低限取り組まなければならないと認められる交通確保のための事業については、費用便益比等の値にかかわらず、「事業を行う価値がある」」(『島根県道路事業評価マニュアル(案)』)事業については遂行の道が開かれた。これらの3つの評価の柱を総合して最終評価がなされるのが新マニュアルの手順の流れである。

 後に見る道路評価の4つの道路事業に関しては、これらの新マニュアルを用いた評価を試みているが、意見具申の文書においては須川谷日原線日原工区の具申において明示的に新評価手法を活用した評価が従来の評価手法に加えてなされている。いずれにしても、本県にとり「救急医療アクセス向上便益」、「観光地へのアクセス向上」の項目が評価項目として設定されたことは歓迎したい。ただ、不完全代替ルールに関しては、費用便益を無視した乱用を心配する委員の声があることを記しておきたい。

 再評価委員会としては新マニュアルに馴化し、それを駆使した評価を今後の課題としたい。

 

 総括すれば、公共事業再評価委員会は県事業9件のすべてを「継続」とした。

 今後の事業の展開に関して、さまざまな希望、要望、きびしい条件がついたものがある。関係する事業担当者はそれらに関して十分な留意を払われたい。コスト削減の努力を引き続き払うことは言うまでもない。治水、治山に関係した事業については県民の不安を緩和、払拭するためにも早期の完成に努めて頂きたい。

2審議対象事業

 島根県が、再評価の対象として提出してきた事業は下記のとおりである。

 ○土木部8箇所

・社会資本整備総合交付金事業(道路改築)(一)須川谷日原線日原工区

・社会資本整備総合交付金事業(道路改築)(主)出雲三刀屋線伊萱工区

・道路改築事業国道485号松江第五大橋道路

・社会資本整備総合交付金事業(道路改築)国道485号郡バイパス

・社会資本整備総合交付金事業(河川改修)出羽川

・県単河川緊急整備事業代川

・社会資本整備総合交付金事業(砂防)寄居谷川

・社会資本整備総合交付金事業(地すべり対策)下津戸

 

 ○農林水産部1箇所

・広域漁場整備事業隠岐地区

 

3現地調査及び詳細審議案件

 ○土木部8箇所

(1)社会資本整備総合交付金事業(道路改築)(一)須川谷日原線日原工区

(2)社会資本整備総合交付金事業(道路改築)(主)出雲三刀屋線伊萱工区

(3)道路改築事業国道485号松江第五大橋道路

(4)社会資本整備総合交付金事業(道路改築)国道485号郡バイパス

(5)社会資本整備総合交付金事業(河川改修)出羽川

(6)県単河川緊急整備事業代川

(7)社会資本整備総合交付金事業(砂防)寄居谷川

(8)社会資本整備総合交付金事業(地すべり対策)下津戸

※(1)、(5)については担当委員において現地調査を行った。

 ○農林水産部1箇所

広域漁場整備事業隠岐地区

4審議日程及び経過

 第1回平成23年7月8日(金)

出席委員:安部康二、来海公子、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、森也寸志、和田登志子(50音順)

再評価対象事業9箇所について、事業者から説明

現地調査及び詳細審議箇所の抽出

 第2回平成23年8月9日(火)

出席委員:安部康二、来海公子、木村和夫、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、正岡さち、森也寸志、和田登志子(50音順)

現地調査

・社会資本整備総合交付金事業(地すべり対策)下津戸

・社会資本整備総合交付金事業(砂防)寄居谷川

・道路改築事業国道485号松江第五大橋道路

・社会資本整備総合交付金事業(道路改築)(主)出雲三刀屋線伊萱工区

 第3回平成23年8月23日(火)、24日(水)

出席委員:安部康二、来海公子、木村和夫、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、森也寸志、和田登志子(50音順)

過年度審議対象地区現地視察(23日)

 19年度総合流域防災事業八尾川

 20年度県営林道開設事業一の坂大時線

 21年度県営林道開設事業上ヶ床線第1期工事

 22年度社会資本整備総合交付金事業(海岸高潮対策事業)別府港大山地区(資料説明のみ)

 22年度社会資本整備総合交付金事業(港湾整備事業)西郷港本港地区

現地調査(24日)

・社会資本整備総合交付金事業(道路改築)国道485号郡バイパス

・県単河川緊急整備事業代川

・広域漁場整備事業隠岐地区

 

 第4回平成23年9月16日(金)

出席委員:安部康二、来海公子、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、正岡さち、森也寸志、和田登志子(50音順)

抽出事業の詳細審議

 第5回平成23年10月14日(金)

出席委員:安部康二、来海公子、木村和夫、藤山晶子、藤原眞砂、正岡さち、森也寸志、和田登志子(50音順)

意見具申案の審議

5詳細審議箇所の再評価結果

(1)【社会資本整備総合交付金事業(道路改築)(一)須川谷日原線日原工区】→継続

 本事業は、平成12年度に事業採択され、途中平成17年度から2年間の休止を経過して、

進捗率は現時点で38%、平成34年度完了予定の事業である。休止期間中バイパス案の見直しを図り、1.5車線的改良による現道拡幅案で平成19年度から再開、早期の整備効果を目指している。

 本路線は、津和野町役場や診療所や国道9号がある日原と須川地区を結ぶ唯一の路線であるにもかかわらず、落石危険箇所や崖崩れなどの発生も多く、平成22年には全面通行止めが11日間続いた。通行すれば歴然とわかる難路で、急峻な崖に沿って急カーブが連続する最小幅員2.1mの狭い道である。通行止めの場合の迂回路も小1時間要する上、大雨の場合は通行できない。この須川・相撲ヶ原は、現在90世帯余り約270人の住民が暮らし、山間部にしては平坦で開けた農耕地を持つ集落であるが、現状では大きな災害時には孤立化する可能性が高い。住民の生命と暮らしがこの路線の改良にかかっていることを痛感し、継続とする。

 この事業は、地元の早期完成の熱望にもかかわらず、2年間の休止期間がはさまれた。

当初の費用対効果の数値と遅れ気味の進捗状況が財政健全化に向けての公共事業費削減の対象になったためと思われる。今回から島根県では、中山間地域総合評価算定シートという独自の算定方法で公共事業の見直しを図っている。その評価で本事業は[abbb]という結果である。aが表す費用便益比0.17は極端に少ないが、b表示の社会的効果はある程度の評価を得ている。ただ、この路線のように住民の命と暮らしを繋ぐ唯一の道の場合、その評価結果以上に優先すべき整備事業ではないだろうか。

 中山間地域の多い島根県では、このような必要最小限の安全安心が図られていない地域が多々ある。定住が不安な地域をすくい上げる土木事業こそ急務であり、一度荒廃したら復活が難しい不可逆性と自然と共存する唯一性を持つ美しい山里を後世に残すために、不可欠な取り組みと考える。市街地などの人口が多い所の利便性や産業振興の充実などを図る事業は数値的には有利だが、評価に現れない弱き地域を支える事業を行うことが、島根らしい土木事業としての方向性を打ち出す指標になりうると判断する。

(2)【社会資本整備総合交付金事業(道路改築)(主)出雲三刀屋線伊萱工区】→継続

 この事業は、全体は出雲三刀屋線で15.7kmの内、伊萱工区2.68kmが対象である。平成18年度に再評価対象事業となり、今回は5年経過で2度目の対象になった事業である。

 この事業は、B/Cで0.78、工事着手は平成3年からで、工事完了予定は平成30年に及ぶ事業で、工事の進捗率は56%である。現在は、切土予定の山が脆弱であることが判明し斐伊川堤防へ道路線形を見直し、支川付替を含めて設計変更中で工事は中断している。

 出雲三刀屋線は古くから、広島・飯石方面から出雲市内を結ぶ道路としての機能と上津土手と呼ばれる斐伊川堤防の役割を併せ持つ重要な道路である。

幹線道路でありながら幅員が狭く中央分離線もなく、ガードレールも少なく、橋の部分で急な方向転換を要している。また斐伊川沿いのため冬季は凍結が厳しく歩行者にもドライバーにとっても非常に危険な道路で幹線道路としての整備が不十分と思われる。

 3月の東日本大地震以降、島根原発の非常事の際の避難先としての可能性もあるこの地域の道路の整備も重要と思われる。

 また、工事の変更はやむを得ないと思われるが、着工前の十分な調査、検討すべき課題の早期把握など、特に設計の変更に際しては的確な判断と迅速な処理を望む。

(3)【道路改築事業国道485号松江第五大橋道路】→継続

 本事業は、一般国道431号川津バイパスと国道9号松江道路をつなぐ延長5.2kmのバイパスを整備するものである。平成15年度に採択されたもので、平成24年度暫定2車線完了予定の事業である。総事業費485億円(暫定2車線では383億円)、現在の進捗率は94%である。

 松江市街地は大橋川によって南北に分断されており、現在南北をつなぐ4つの橋が建設されている。本事業は、地域高規格道路「境港出雲道路」の一区間として、宍道湖・中海圏域の一体的発展や市街地の渋滞緩和を目的として、建設が行われることになった。

 現在、宍道湖大橋・松江大橋・新大橋・くにびき大橋と4つの橋があるが、これだけでは交通量を処理しきれず、慢性的な渋滞が発生している状況である。特に、朝夕のラッシュ時は自転車・歩行者も含めてかなりの混雑で、危険さえ伴う状況にある。また、松江市の南北をつなぐルートとして、くにびき大橋の東には中海沿いに中海大橋があるが、こちらも米子・安来方面と松江市内をつなぐルートとして交通量が多くなっている。

 もう1つの問題として、高校生の通学の問題がある。橋南の津田周辺は松江東高校の校区であり、松江市立女子高校も含めて、橋南から通学する場合、大きく迂回してくにびき大橋を通らねばならなくなっている。高校生のみならず、津田周辺〜朝酌周辺への移動を考えた時、徒歩や自転車で橋南と橋北を移動する場合は非常に不便であるのが現状である。

 以上のような状況から、この第五大橋の建設によって、松江市周辺の交通渋滞の緩和・事故の減少・日常生活の利便性の向上等、多くのメリットがあると考えられる。

 問題点は、安全面である。

 国道431号側には、近くに川津小学校・松江第二中学校・松江東高等学校等があり、住宅団地も多い。特に、川津IC付近には育英北幼稚園(園内にはたまち保育園も併設)がある。以上のことから、計画当初から園児・児童・生徒の通学時等の安全性が懸念されていた。しかし、これは、地域住民との話し合いを重ねたり、計画面でも歩道と交差しないよう計画する等、対策が取られているとのことである。

 もう1点は、現在工事中の箇所を見てみると、木が伐採されて山肌が見える箇所が多く見られる。近年、豪雨による土砂崩れや地滑りによる被害が多く発生していることや、地盤が緩い箇所が多いという島根県の特徴からみて、近隣の住民は安全に対して不安を抱えていることは事実である。

 上記のような安全性については十分考慮されていることとは思われるが、地域住民の感情に鑑みて、工事中及び工事完了後の更なる安全の確保をお願いしたい。

(4)【社会資本整備総合交付金事業(道路改築)国道485号郡バイパス】→継続

 本事業は,隠岐の島町の中央を走る国道485号において、伊後から郡地区へ抜ける5.72kmのバイパス工事を行うものである。現道は幅員が狭小で、屈曲しており、対向車のすれ違いや降雨降雪時の通行に支障があるため、バイパス整備をすることによって安心で安全な通行を確保する。国道485号は幹線道路として、島の南北をつなぐ位置づけにあり、生活道路として、また観光の円滑な移動として整備の必要性が高いと判断される。

 現在の道路は山の形状に沿った道であるため,屈曲しており、また、幅員も十分ではない。評価者は実際にこの道を何度か走ったことがあるが、カーブごとに対向車を気にしながらの運転で、材木を積んだトラックとのすれ違いは、速度を落としながら慎重にする必要があった。バイパス工事が完成することで、安全な交通が確保されるとともに、島の南北のアクセスがよくなることから、役場、病院などへの移動がスムーズになり、利便性の向上、生活の質の向上、物流の活性化がはかられる。また、島の北部には、ロウソク岩、白島海岸など観光資源があり、島の入り口である西郷港からの移動が円滑になることで観光事業に大きく貢献する。

 同事業は採択から10年で進捗率99%(完了予定年度平成24年度)となっており、円滑に事業が実施されていると考えられた。幹線道路であることから早期の完成が望まれるところである。なお、現道はもともとの生活道路としての機能に加えて、周辺にはスギ・ヒノキ人工林が多くあり、材木の運び出しのための運搬道としても機能する。バイパス道完成後も旧道として有効利用することが望まれる。

 以上、島の中央を南北に走り、生活・観光・産業を支える重要な役割を担う道路工事として、島民のニーズと完成後の十分な効果が期待できる事業と判断した。

(5)【社会資本整備総合交付金事業(河川改修)出羽川】→継続

 9月5日、島根県県央県土整備事務所の案内で、邑南町伏谷地区の事業現場を調査した。当地は、昭和58年に洪水が発生し、家屋の床下浸水被害や田畑の冠水被害が発生したことにより事業導入がなされている。

 調査当日は、折からの台風12号が通過した後で、出羽川の流量は平時の3倍になっていた。本事業の工事着手年度は平成16年度で、工事進捗状況は平成23年度末見込みで74%との説明であった。現地、伏谷地区は出羽川左岸を(主)浜田作木線が併走しており、未改修区間の一部では道路への冠水被害が発生しそうであった。河川改修事業の全体延長は1,270mで、下流側の半分は既に改修工事が完了しており、安定した流下状況であった。

 出羽川の上流部起点は邑南町上田所、終点は下口羽で江の川へ接続している。出羽川支川(支流)は17箇所と多くあり、主な支川は高見川、長田川、小林川などである。23年度の主要工事は、上流区間の護岸工事及び掘削工事等である。河川改修工事は、河川環境の保全を図るため河川の拡幅は左岸のみとしている。左岸には水田が多く存在するが、用地交渉も含めて工事は概ね順調に進捗していた。この改修により河積(道)断面は現在の2倍となり、計画流量690t/秒が流れる計画になっている。また、出羽川ではアユ漁が行われるため、河川改修工事は期間制限を受けることにより、工事計画に配慮がいる。工事完了予定年度は平成29年度となっているが、河川流域には水田等の農地が多く隣接しているので、早期の事業完成が望まれる。

(6)【県単河川緊急整備事業代川】→継続

 本事業は、隠岐の島町代地区集落内を流れる代川において、河積不足により平成3年度に発生した豪雨災害による洪水災害をはじめ、これまでに幾度となく洪水災害が発生し、また、水田用の固定堰が河積の阻害を著しくしていることからこの改修も行うことを目的とし、計画延長655mを改修する事業である。この河積不足の解消として、河道の拡幅を基本に断面を確保することとともに、固定堰の河積不足対策としては可動堰が計画され洪水時には通水断面が確保出来る計画となっている。

 当事業は平成14年度事業採択以来10年が経過し、本年度末で78%の進捗となっている。

 費用対効果は1.07と低いが、この要因として考えられるのは効果としての保全対象が少ないことにあるように思われる。これは、農村部の小集落ゆえの結果とみられる。

 しかし、平成20年度に県が策定した島根総合発展計画に「安心して暮らせるしまね」として、「災害に強い県土づくり」と盛り込まれている。また、被災原因の一つに固定堰が挙げられているが、現状では未整備の状態である。以上の点を踏まえ、治水事業の一環として早期の事業完了が必要と考える。従って、県の方針どおり継続が妥当である。

(7)【社会資本整備総合交付金事業(砂防)寄居谷川】→継続

 本事業は、出雲市十六島町寄居谷川流域が土石流危険渓流であり、今後の集中豪雨等により土石流が発生した場合、大きな被害をもたらす可能性があることから、対策を講じる必要性が生じたものである。過去の豪雨において一部山腹崩壊が確認され、点検の結果既設の砂防堰堤がほぼ満砂状態にあり、一基のみでは予想される流出土砂に対して不充分であることが判明した。

 また、保全対象には人家、一般県道十六島直江停車場線、災害時避難所となる十六島集会所等が存在し、民生の安定に必要不可欠な事業と思われる。さらに、一般県道十六島直江停車場線の機能が保全されることにより、防災機能の確保、地域経済活動の安定化と発展、観光振興を図る上での効果は大きい。特に当該地域は県産品の重点品目のひとつである十六島海苔の産地であることや、自然エネルギーとして注目されている風車の展望台設置場所として、地元住民は地域活性化にかける意気込みが大きい。

 2号砂防堰堤については、下流に不透過型砂防堰堤があるため、透過型砂防堰堤を採用することでコスト縮減を図ったり、工事用道路の45%を他事業で行いコスト縮減を図るなど計画は合理的かつ妥当性があると考えられる。

 当事業は、厳しい財政事情の中ではあるが地域住民の安全で安心できる生活基盤を確保するという、最優先課題を遂行する上で極めて重要であると思われる。また、事業の確実な遂行は地域社会、経済に与える影響が大きいことはいうまでもない。

 以上のことから、当事業は継続が妥当であると判断する。

 なお、当該地域は日本海に突き出ており、前は海、後ろに山を背負うという典型的な狭隘な漁村地域であり、災害時の避難場所が確保されているであろうかと案ずる声が現地調査で聞かれた。住民の日頃の防災意識を高めるソフト面とハード面の、バランスのとれた事業推進を関係者は常に念頭におくことが必要である。また、気候変動により想定外の気象災害に見舞われることが増加している昨今、可能な限りの事業の早期完了を地元住民は熱望しており、事業の優先順位の的確な判断を期待する。

(8)【社会資本整備総合交付金事業(地すべり対策)下津戸】→継続

 本事業は、大田市の最東部に位置する大田市朝山町地内の下津戸地域の地すべりの防止を目的とした防災事業である。この地区の保全対象には人家のみならず国道9号、出雲市の水道施設など地域の主要インフラを含んでいる。当地域の周辺は、多くの地すべり防止区域が存在しており、地形地質的にも地すべり危険区域に含まれる地域となっている。また、当地区に含まれる地すべりブロックには過去、国道9号の交通に多大な支障をきたす地すべりの発生もあり、こうしたブロックへの対策を最優先に実施してきている。

 本事業は、こうした地すべりに対する危険な状況を解消するために計画されたものであり、安全対策の観点から早急な対策整備が求められるが、事業採択後10年を経過している。この主たる理由として、当地区は指定エリアが広く地すべりブロックも9ブロックと対策数が多いことが挙げられ、優先度の高い順に逐次地すべりのメカニズムの解析、防止工事を実施し今日に至っている。解析から対策工事完了までに5年あまりを要したブロックもあり、ある程度の工期の延長は止むを得ないものと考えられる。幸い、国道9号や人家を中心としたブロックが優先的に対策されてきており、事業の進め方に指摘すべき点は無い。現在76%の進捗状況となっており、当事業の重要性と定住対策、安全安心な県土整備の観点から、当工区の中止を求める理由は皆無であり継続は妥当であると判断され、早急な完成を期待する。その際、事業対策効果の点からは地下排水を中心とした対策工事が中心とならざるを得ないが、地域の状況をしっかりと把握され、事業効率を踏まえた上で地上排水などきめ細かな対策にも留意されたい。

 なお、防災事業に関しての追加意見として、昨今の災害を引き起こしている降雨の状況は過去に例の無いような実態が見られる。防災事業は一定の基準降雨を対策の対象としていることから、こうした想定外の降雨に配慮され、対策が終わっているから安心であるとの行政、地域住民の認識にこだわらず、消防防災との連携のもと避難体制の整備などについても十分な配慮を頂くようお願いしたい。

(9)【広域漁場整備事業隠岐地区】→継続

 本事業は、隠岐諸島周辺海域において、水産資源の維持増大を図るために魚礁を設置し、新たな漁場を造成する事業である。当初計画では、平成13年度から平成22年度の事業期間10年において15工区が整備される予定であったが、事業の見直しにより現在8工区が完成しており、残り7工区については平成27年度までに整備される予定となっている。

 隠岐諸島周辺は良好な漁場を有しているものの、近年は地球温暖化等による漁場環境の変化にともなう水産資源の減少、魚価の低迷、燃油高騰による経営の悪化等、漁業を取り巻く情勢は厳しい状況となっている。一方では、離島を取り巻く諸問題の中にあって、漁業就労者の高齢化、後継者不足という深刻な問題を抱えている現状にある。このような状況において、より近くの漁場で、より良い漁労環境のもと、より多くの漁獲を目指す必要があり、本事業の意義は大きい。

事業方法においては、魚礁の種類や設置場所等の選択にあたり、地元要望も踏まえ、人工魚礁漁場造成計画指針に基づいて適切に決定されている。ただ、事業費の縮減という面において一定の配慮がなされているが、魚礁の種類において効果が高いという視点のみならず、今日の環境問題や耐用年数と価格バランス、県民感情などを踏まえ、今後の検討をお願いしたい。

 事業効果については、具体的な検証が困難であることから漁獲量の目標値が設定されておらず、指標として示されている設置によって期待できるであろう漁獲量を効果として捉えており、今後は何らかの科学的な効果測定が求められる。客観的には、魚礁に各種の魚類が回遊することが確認されているほか、漁獲量等の統計数値にも効果をうかがうことができる。また、地元漁業者においては、本事業への参画、協働が見られ、今後の整備促進への期待が感じられることからも事業効果が推測できる。

 隠岐地域の基幹産業である水産業の振興を期するため、早期に当該事業を完了され、更なる効果的な地域における魚礁設置事業を展開されたい。また、本事業には、地域の環境保護と観光振興という側面があり、付加価値として活かせる取り組みも期待したい。


お問い合わせ先

技術管理課

〒690-0887 島根県松江市殿町8番地(県庁南庁舎)
【品質管理、成績・表彰に関すること】
 TEL 0852-22-5389(工事品質管理スタッフ)
【公共事業評価、総合評価方式に関すること】
 TEL 0852-22-5650(公共事業調整スタッフ)
【積算基準・単価に関すること】
 TEL 0852-22-5942(農林設計基準係)
 TEL 0852-22-5941(土木設計基準係)
【しまね・ハツ・建設ブランド、i-Constructionに関すること】
 TEL 0852-22-6550(企画調査係)
【公共土木施設の老朽化対策に関すること】
 TEL 0852-22-6014(長寿命化推進室)
【その他のお問い合わせ】
 TEL 0852-22-5652(代表)
 FAX 0852-25-6329
 e-mail gijyutsu@pref.shimane.lg.jp
※入札参加資格、電子入札については、土木総務課建設産業対策室(0852-22-5185)にお問い合わせください。