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有識者インタビュー5

遺伝子組換え作物研究や消費者の反応等の現状をどのようにお考えか

 今回の「実用的な作物開発を目的とした遺伝子組替え研究に関する取り扱い」(以下「取り扱い」と略称)においては、「消費者の不安感があることなどから」実用的な作物開発を目的とした遺伝子組替えの研究は、当分の間、凍結する、という方針が書かれている。この方針は妥当な判断だと思われる。

 遺伝子組替え研究の進め方について不安や危惧を表明しているのは、消費者(この言葉が意味しているのは専門の研究者や知識人ではなく、科学的な知識のないごく一般の人々という程度の意味であろうと思われる。)ばかりではない。研究者や知識人のなかにも広く存在しているものと理解している。

 理念と現実との乖離が大きい。理念としては、遺伝子組替え作物は人類の福祉に役立つ有効な手段であると主張されている。しかし、その研究の成果が現実に示しているものは、理念と乖離している。問題は、研究成果が「知的所有権」の対象として認められてしまった(未だに議論のあるところではあるが、現実はそのように動いている)結果、企業の排他的利益を生み出す手段と化していることにある。〔先行事例ー例えば、遺伝子組替え作物を開発した多国籍企業の行動とそれと闘うカナダの農民シュマイザー氏の事例等ーを見る限り、開発企業は利益のためには手段を選ばないこと、生産者の利益や消費者の利益については無視ないし軽視されていること。〕

遺伝子組換え作物研究や食品流通の将来像をどのように見たらよいか

理念通りのあるべきものにするには、現実に進行している、多国籍企業等による「生命(生物資源)の私物化」と呼ばれているような問題をどう考えるのか、がまず検討される必要がある。生命(生物資源)が特許の対象となり、私的企業が私有財産として、独占的利益を得ることを許しておいて良いのか。利潤追求を第一とする(しなければならない)私的企業に、理念通りの行動を期待できるのか。現在起こりつつある現実を前提にして、この様な方向に人類の未来はあるのか。大いに疑問だと考える。
現在の「研究成果」と称するものから判断すれば、このままでは社会全体や環境問題の解決に役立つというような人類益につながっていかない性格のものではないかと考える。

 もし認められるとすれば、どのようなものが考えられるのか。それは例えば、企業益や国益を越えた世界レベルでの公的機関等による研究が、慎重にリスクを回避しながら行われ、成果を蓄積しておく。そして、他の手段がない困難な状況が起こったとき、やむを得ず使うことはあるだろうと考える。
しかし、その前提として、現在世界の現実、遺伝子組替え作物が出動する以前の問題解決にもっと全力が傾けられるべきだと考える。世界の飢餓人口約8億人と、飽食で肥満に「苦しむ」先進諸国の約8億とも10億ともいわれる人々の同時存在、この構造的な問題解決に有効な資金を使う方がより重要だと考える。

県立研究機関としてどこまでの研究をするべきと考えるか

 遺伝子組替え作物は、今後も多くの消費者に受け入れられる可能性は低いと考える(選択の余地が無くなるというようなことが無い限り)。したがって、実用化研究は不要。
遺伝機構の解明等基礎的研究は必要かもしれないが、既に述べたように、それは県立機関で行う研究というより、国や世界レベルで進めるべき事だと考える。
それよりも、県立の研究機関に期待されるものは、次のようなものである。

 研究費は限られており、有効活用される必要がある。島根県(農林水産技術会議)にとって、遺伝子組替え作物を研究することよりももっと大切なことは、循環型社会の実現に向けてこれから重要性をましてくるであろう有機農業や環境保全型農業を如何に有効に進められるように工夫するのか、あるいは遺伝子組替えでない方法による品種改良や有効な技術の開発をし、島根に合った有機農業技術などを作り出す研究の方が、はるかに重要だと考える。

 島根県は有機農業をもっと奨励すべきであると考えるが、そのときに遺伝子組換え作物が問題となる。有機農業では、"生命"を人為的に操作した遺伝子組換え作物の使用を全面的に禁止している。遺伝子組換え作物を種子や苗として収穫物を得ることは「有機農産物」である以上、認められていない(JAS規格でも禁止)。
遺伝子組換え作物の収穫物を家畜のえさや堆肥の材料とすることも、原則として認められ(てい)ないのである(有機農業は、遺伝子組み換え作物を認めない農業である)。
日本の場合、アメリカからの輸入穀物の割合が高く、しかも流通過程での遺伝子組替え作物は厳密には分別されがたいのである。そのため、分別されたものに意図しないでまぎれこんだものは、5%まで許容されている。このような状態は、有機農業をきわめてやりにくくしている。農林水産省の「有機農産物」のJAS規格では、「各国の実情」を斟酌する範囲と称して、飼料・堆肥原料への使用(二次的使用)には言及していないのが実情である(日本では許容されているとみなされるが、世界的な基準からは認められないものである)。

 島根県が現在推進している農業の一つの方向としてエコロジー農産物の推奨制度がある。慣行農業の農薬や化学肥料使用の半分以下の場合、島根県の認証農産物としてラベルを張ることが可能となる(条件として認定農業者であることが必要である)。いわゆるJAS規格による特別栽培農産物なのであるが、この制度をより意味のあるものにするためには、生産農家の生産技術が、進化していかなければならない。進化の先あるいは最終目標は有機農業として認定されることにあろう。そのためには、意欲的な生産農家が、有機農業に取り組みやすくしなければならない。研究機関の支援が期待される。

 また、島根県が早急に進めるべきものに、地域に受け継がれてきた伝統的な品種の収集と保存そして活用がある。商品としての特性、経済的な理由などにより栽培が行われなくなった品種は、これからの有機農業や地域色豊かな作物などを育てていく上での貴重な財産である。少なくとも、商品化された農産物生産が中心となる以前には、優れた性質を持っていたが故に受け継がれてきたものである。地域の気候に合っていて栽培しやすい、生産量は少なくても味が良い等それぞれの特性があったはずである。そうしたものを活用していくことがこれからの島根の農業の方向を考える上で大切になるものと考える。そして、これは、生物多様性との関連でも重要なことである。


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