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有識者インタビュー1

遺伝子組換え作物研究や消費者の反応等の現状をどのようにお考えか

一般の安全性の議論では,「○○は身体に良い,△△は悪い」といったTV番組に象徴されるように,曝露量についての考慮が欠落している。良いといわれるものでも過剰に摂取すれば害になるし,悪いといわれるものでも摂取しなければ,あるいはごく微量の摂取であればなんら害はない。
GM作物の安全性の問題は「食品としての安全性」と「環境に対する安全性」に分けて考えなければならない。食品の場合には導入した遺伝子が問題ではなく,むしろその遺伝子がつくる物質とその代謝産物の毒性の問題であろう。一方,環境安全性を考える時にはその遺伝子の拡散を問題にする必要がある。一言で安全性と言っているが,どの安全性について議論されているのか定かでないことが多い。
根拠に乏しい漠然とした不安を煽る一面的な内容ばかりが,全体を理解していない報道機関から消費者に伝わり,消費者自身が適切な判断を出来る状況ではない。この状況は,医薬よりも厳しい安全性試験とリスク管理が行われている農薬をめぐる状況と同じであり,議会や行政がこのことをまず認識する必要がある。

GM作物がどんなもので、リスクがあるとすればどの程度の大きさなのか,また,他の種々の技術と比較してその大きさは重大なのか,などについて消費者とのリスクコミュニケーションをしっかりやるべきである。
リスク分析は、曝露量評価と毒性評価を行った上でリスクの特徴付けを行った上でリスク管理をしてリスク低減を試み,さらに最終的なリスク評価を行う。このリスクとその技術によって得られる便益の比較,すなわちリスク・便益分析を行うことになる。同時に,その技術を用いない時のリスク,代替法によって生じるリスクについても考慮しなければならない。

EUとアメリカでは対応が違う。これは各国の食料(貿易)戦略の違いであって,安全性に関わる科学的対応の違いではないことは明らかであるが,わが国の一般の議論ではこのことに言及されることがほとんどない。

遺伝子組換え作物研究や食品流通の将来像をどのように見たらよいか

新しい技術についての研究はしておいた方がよい。研究成果の積み上げが必要であり、必要なときに使える状況にしておくべきである。その技術を使うか使わないかは、前述のリスク分析を踏まえ,議会や行政が判断することである。したがって,リスク分析を行う以前に(リスク分析を行えるだけの材料がない時点で),研究そのものを中断することは将来に禍根を残すことになるかもしれない。もちろん研究手法については十分な吟味が必要である。
将来的にはGM作物が今以上に市場をにぎわすことになるだろう。地球上の食料の絶対量は明らかに不足している。現在のわが国のような状態がいつまでも続くとはとても思えない。さらに,耕作可能地が限られていることを考えれば,栄養的に改良された食料の需要も一層高まるであろう。食料の量を確保することが食の安全にとって最も重要なことであることは論を待たない。

県立研究機関としてどこまでの研究をするべきと考えるか

島根県の農業政策による。
県産品の差別化を目指すのであれば,栄養的,味覚的に改良された特産作物の創出を目指すGM研究は進められるべきである。この場合には,隔離圃場試験まで行ってデータを蓄積しておくべきであろう。
一方,「アメニティ空間の創出と利活用」,「生きがいの場の提供」などで農業振興を図ろうとするならばGM研究は必要がない。

県農林水産技術会議が検討している方針についてどのようにお考えか

リスク分析が行われた上で「凍結」という言葉を出すならともかく、「なんとなく不安」という世論を技術会議が説得できない結果であるのなら困る。ただし,技術会議でリスク分析をやった上でなお,財政状況などから行政が政策判断したなら理解できる。
技術会議の方針が出された根拠を伺いたい。技術会議は行政機関のうちの一つではあろうが,県としての政策判断をするにあたって科学技術的知見を提供することがその任務であると考える。
消費者は偏った情報によって判断せざるを得ない状況にある。判断の際の情報源の質にこそ問題がある。安全と安心は全く別物であるという認識が,いわゆる‘有識者'にもない。技術会議として研究の推進,凍結を結論づける前にするべきことは,まず十分なリスクコミュニケーションをすることであろう。リスク開示をすると同時に便益についても十分な意見交換が必要であると考える。

その他

前述のように,GM作物の安全性の問題は「食品としての安全性」と「環境に対する安全性」の双方を考えなければならない。生物多様性や既存作物の保護などの観点から「環境安全性」の問題には十分な配慮が必要である。花などの非食作物なら受け入れられるという話があるが,GM作物問題についての理解が乏しいといわざるを得ない。
GM作物のメリットは消費者にはないというが,食料の安定供給ということが最も大きな消費者メリットであろう。「食料がある」ことが「食の安全」にとって最も大事なことである。食料が余っていると考えている社会が問題である。


お問い合わせ先

農林水産総務課

島根県農林水産部農林水産総務課

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