第3回宍道湖・中海ラムサール条約と「賢明な利用」を語る会

宍道湖・中海の漂着物について考える

島根県では、両湖のラムサール条約登録を目指すに当たり、ラムサール条約とは何か、登録後の様々な分野からの「賢明な利用」へのアプローチや環境保全の取組について、多くの方々とともに語り、理解を深め、考えていただくため、関係方面の協力を得て、昨年度、『ラムサール条約と「賢明な利用」を語る会』を2回開催してまいりました。

 おかげさまで、2005(平成17)年11月8日に両湖が同時登録されましたが、それぞれの取組が実現するのは、多くの方々の参加があってのことであり、今後も、多様なテーマを設定し、この会を継続的に開催してまいりたいと考えています。

 このような考え方の下、去る6月10日(土)、島根県立宍道湖自然館ゴビウスにおいて、2006(平成18)年度3回シリーズの第1回目(通算3回目)の「賢明な利用を語る会」を開催しましたので、その模様をお知らせいたします。

 

1.主催:島根県、島根県立宍道湖自然館ゴビウス、ホシザキグリーン財団、

 

2.実施年月日:平成18年6月10日(土)午後1時30分〜午後4時

 

3.場所:出雲市園町島根県立宍道湖自然館ゴビウス

 

4.参加人数:約40名

 

5.次第

(1)開会挨拶島根県環境生活部次長三代広昭

 

(2)事例発表

 中井喜美男氏(国土交通省出雲河川事務所河川管理課長)

 「宍道湖・中海の環境と清掃活動」

 

 高橋正治氏(宍道湖漁業協同組合参事)

 「宍道湖漁協による湖内の清掃活動について」

 

 内藤武夫氏(社団法人日本ジュニアヨット連名理事)

 「中海での清掃活動の取組について」

 

平塚純一氏(島根野生生物研究会)

 「植生が湖沼の水質に及ぼす影響−宍道湖・中海における肥料藻利用の実態から−」

 

 野崎研氏(財団法人島根ふれあい環境財団21)

 「漂着物を用いた教育普及活動について」

 

(3)座談会

 

(4)ゴビウス館内見学

 

6.概要

 開会に先立ち、島根県環境生活部三代次長より、挨拶と本会の趣旨の説明が行われました。

その後、越川ゴビウス館長を司会として、宍道湖・中海で環境保全・清掃活動に取り組んでおられる5氏より、事例発表とこれまでの取組について15分ずつ発表が行われました。

 

国土交通省出雲河川事務所中井課長

 まず、国土交通省出雲河川事務所の中井課長より、「宍道湖・中海の環境と清掃活動」と題して、両湖の水質・流入河川の現状、汚濁原因等についての説明、清掃作業船「おろち丸」の活動の紹介、両湖のゴミの現状と今後の課題についての説明が行われました。

 ゴミの現状については、ゴミ回収量は年平均約350立方メートル、平成17年度は14年度の約2倍、地域別では松江市が全体の約80%を占め、草本類が多く回収されており、また、湖岸に多く打ち上げられるゴミの多くはヨシや竹であるが、ペットボトルや廃棄物も見られるとのことでした。

 また、今後の課題として、台風の影響以外にもゴミの量が増え続けており、収集だけではなく発生源への対応が必要であること、家電リサイクル法施行から家電製品や廃タイヤ等の不法投棄が増えていること、藻が大量に発生し、腐敗臭により近隣住民から苦情が寄せられていること、ボランティアとの協働が必要であること、の4点を挙げられました。

 

宍道湖漁協高橋参事

 次に、宍道湖漁協の高橋参事より、「宍道湖漁協による湖岸等の清掃活動について」と題して発表が行われました。

 まず、湖底ゴミ、植物遺骸、へい死魚介類、湖岸・湖面の漂着物といったゴミの種類別に現状を説明、漁業におけるゴミ問題とは、操業や漁船航行への物理的障害、植物遺骸等の腐敗による湖底と水質の悪化、景観や衛生面での問題、これらの問題による水産物の風評被害、等が挙げられると整理、宍道湖漁協のゴミ問題への具体的な対策として、シジミ漁師300名が参加した湖底清掃活動、マリントラクター等を活用した湖底耕運、コイヘルペス等によりへい死した魚介類の回収作業、清掃イベントへの参加、が紹介されました。

 その上で、清掃活動における問題として、市町村における処理体制、処分費の取扱いの2点を挙げられ、最後に、流入河川の上流域の住民の意識醸成の必要性と、この水域の良さを活かした「賢明な利用」の実現に向けた周辺自治体・地域住民の取組の重要性を訴えられました。

 日本ジュニアヨット連盟内藤理事

 続いて、社団法人日本ジュニアヨット連盟の内藤理事より、「中海での清掃活動の取組について」と題して発表が行われました。

 ヨットクラブの子供たちとともに、4年以上にわたり、毎月第3日曜日に行ってきた清掃活動の輪が大きく広がり、大人たちも徐々に参加し、「中海クリーンクラブ」が結成された経緯や、こうした動きの中から、中海の湖岸を養子に見立て、参加者がそれぞれの分担区間の清掃活動を行う「中海アダプトプログラム」が生まれ、去る4月16日の一斉清掃では、45団体約500人もの参加が得られたとのことでした。

 そして、あと5年で中海を泳げる湖にしていくとの思いで頑張っており、当初、アダプトプログラムの活動区域が中海の湖岸全体をカバーするのに3年を要する見込みであったが、1年以上早くカバーする手応えを感じているとのことでした。

 島根県野生生物研究会平塚氏

 更に、島根野生生物研究会の平塚氏より、「宍道湖・中海における藻類の農業利用について」と題して発表が行われました。

 水草、海藻、植物遺骸は今でこそゴミという扱いになっているが、ほんの50年前まではそれらは有効な資源として積極的に利用されていたという事例が、最近、宍道湖・中海で明らかになってきていることが報告されました。

 かつて、中海では総水域の約5分の1、宍道湖では約7分の1にも及ぶ広い範囲に沈水植物が繁茂しており、それを刈り取り、例えば、中海ではアマモが鳥取県側で年間約6〜7万トン、島根県側では約10万トン程度が肥料として利用されていたと試算され、沈水植物が吸収した栄養塩が湖外に除去される高度な循環システムが確立していたとのことでした。

 しかし、現在の両湖には沈水植物はほとんど見られなくなり、こうした循環システムがほとんど崩壊しているが、「ワイズユース」の一つの形として、近年よく耳にする「里山」のように、湖でも沈水植物を管理することで、かつてあった循環システムの復活を目指したらどうかという提案がなされました。

島根ふれあい環境財団21野崎氏

 最後に、財団法人島根ふれあい環境財団21の野崎氏より、「漂着物を用いた教育普及活動について」と題して発表が行われました。

 漂着物には実に様々なモノが含まれており、人工物が多いと景観を損ねたり、本来はない動植物への影響が起こるが、拾っても拾ってもゴミはなかなか減らない。そういったときはどうすればよいのか。ならばもう一度ゴミをよく見てみよう、そうするとゴミがどこから来てどうやって来るのかということが分かる。また、教育普及活動であることから、沢山ゴミを集めるということよりも、「ゴミにしない」というところを目標に参加者に伝わるように心を砕いて活動している。具体的には、ゴミ拾いをした場所はどんな場所だったか(立地)、何時だったか(時期・旬)、どんなゴミがあったか(ゴミの構成)を観察し、これを考えるきっかけとして、「拾う活動から捨てない活動」への動機付けを行うようなプログラムを展開しているとの報告がなされました。

 


座談会

 

 以上の事例発表に続き、宍道湖自然館越川館長を座長として、参加者全員による「賢明な利用」についての座談会が行われました。パネラー、参加者からは、座談会の様子

 

○ある程度定期的に清掃する組織を作らなければならないのではないか。

○ゴミのポイ捨てが問題であり、ゴミ拾いなどに多くの方に参加いただいて現状を見てもらうことが大切ではないか。ポイ捨ては車に乗る方が多くされるような気がするが、例えば、自動車の免許更新時に運転者のマナー啓発もしていただいてはいかがか。いずれにしても、様々な形でゴミを減らす努力が必要ではないか。

○行政はもっとゴミ問題を真剣に考えるべきではないか。

○下流の宍道湖・中海を保全していくためには上流域の森林整備も大切だということで、自治体は上流地域で森林整備をされているが、やはり上流の方との話し合いを通して、ゴミ問題などについて考えていくことが必要ではないか。

○ゴミを捨てないことも大事だが、ゴミを出さないということが大切。

(沈水植物の活用方策に関して)沈水植物を肥料に用いるという循環システムは一つのプランだが、今の近代農業の中にそれを組み込むということは難しいが、八郎潟などでは繊維素材として用いられており、そういった面白い企画での利用はあるのではないかと思っている。それより前に、沈水植物があった頃の生態系モデルを考え直した上で水質改善などに役立てることがまず大切なのではないか。

などの活発な意見が出されました

 

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