水産技術センター研究報告14号(2022年3月)

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報文

島根県沿岸における岩礁性重要貝類の増養殖に関する研究(佐々木正)(PDF22,326KB)

 島根県の沿岸漁業において重要なサザエとイワガキを対象に,サザエでは資源管理に必要な産卵から稚貝の発生までの加入量変動にかかわる初期生態の解明を,イワガキでは養殖の安定化に欠くことのできない人工種苗生産技術における諸課題を解決することを目的として研究を行った.その結果,サザエでは島根県における産卵,浮遊幼生および稚貝の発生などの初期生態について新たな知見を明らかにした.イワガキでは養殖種苗の供給元である栽培漁業センターの種苗生産における大量安定生産およびシングルシード種苗生産のための実用的な採苗技術を開発した.さらに,これら重要貝類の増養殖に関して有効な資源管理手法や種苗生産技術についての提言を行った.

 

宍道湖のヤマトシジミ資源量が2018年から2019年の間に急変した際の各種条件の比較(清川智之・谷幸則・原口展子・岡本満・平松大介・福井克也)(PDF1,730KB)

 宍道湖におけるヤマトシジミは,20186月と10月の資源量調査の間に急減し,そのわずか1年後の20196月と10月の資源量調査の間に回復した.本研究では,2018年から2019年の間の宍道湖における水温,塩分および餌料である植物プランクトン相等の各種環境条件のほか,本種の殻長組成,斃死貝および肥満度等について詳細に調査を行い,当該期間における本種資源量に急変をもたらした要因について検討した.その結果,当該期間のうち両年79月の間に明瞭な相違が認められた,本種の肥満度低下にともなって増加する傾向を示す斃死が,本種資源量の急変をもたらした要因である可能性が示された.

 

資料

あなごかご漁業用餌料へのグリシンの添加効果(寺門弘悦・沖野晃・岡本満)(PDF1,209KB)

 あなごかご漁業用餌料として使用されるスルメイカの入手が困難になり,アミノ酸(グリシン)を添加したマイワシの代替餌料としての有用性を検討した.あなごかご漁業の操業船に乗船し,1回目の調査でマイワシがスルメイカより餌料として劣ることを,一筒当りのマアナゴの漁獲尾数(アナゴCPUE)を比較することで確認した.2回目の調査でアミノ酸を添加した3種類のマイワシ(まぶし,まぶし2倍,ミンチ),無処理のマイワシ,スルメイカを餌料とし,アナゴCPUEを比較した.その結果,漁具の浸漬時間が長い(8時間~11時間)場合,まぶし2倍のアナゴCPUEはスルメイカのそれに劣ることなく,アミノ酸の添加効果が認められた.

 

島根県における磯焼け対策の実態調査ー隠岐の島町蔵田の事例ー(寺戸稔貴・堀内正志・向井哲也)(PDF7,755KB)

 隠岐の島町蔵田の漁業者らの活動を調査し,その内容について記録した.

 隠岐の島町蔵田における磯焼けの原因は土砂の流入による母藻の枯死およびタネの供給不足と推定された.漁業者らは2019年6月22日に磯焼け海域でホンダワラ類の母藻投入,同年11月17日に箱眼鏡を用いた海底観察による効果検証を行った.

 海底面の海藻被度は5か月間で75%増加し,12m2の藻場が造成された.ホンダワラ類のタネの大きさや沈降速度を考慮すると,これはオープンスポアバッグから供給されたタネに由来するものと推定された.

本研究は県内の漁業者らが新たに磯焼け対策に取り組む際の有益な情報になると考えられた.

 

グリセリン浸透法による魚介類の色彩保存標本作成の検討(安原豪)(PDF2,413KB)

 魚類の標本は,体内に含まれる水分が多いことから液浸標本として保存することが主流である.一般的に保存液としてホルマリン溶液やエタノールを使用する.しかし,サンプルの体色が退色することが課題となっている.そのため,グリセリン浸透法が開発されたが,その手法の確立までに至っていない.そこで既存の知見を応用して体色を極力残し,さらに魚体が変形しにくい標本の作製を試みた.その結果,暖色系色素の退色は著しかったが,魚種によっては暗色系色素および体型を維持することがわかった.本報で検討した標本は外見が良いことから教育現場や公共機関でも教材として有効活用できる.

 

2020年の江の川におけるアユの産卵状況(谷口祐介・寺門弘悦・寺戸稔貴・安原豪)(PDF6,057KB)

 江の川における2020年のアユの産卵場の造成の必要性を判断するため,産卵期前に河床状態等を調査し,産卵場としての適否を把握した.その結果,産卵適地は合計780m2の面積が見込まれた.アユ親魚量は少ないと考えられたことから,江川漁協とも協議のうえで産卵場造成を見送った.その後,産卵状況の調査を行った結果,八戸川合流点,長良の瀬(下流側)で産着卵が確認され,産卵面積は合計1,005m2であった.

短報

小田川および田儀川におけるアユの生息状況(寺門弘悦・福井克也)(PDF813KB)

 島根県内水面漁場管理委員会指示によるアユの採捕規制の対象河川である小田川および田儀川におけるアユの生息状況を把握するため,2017年春季のアユの遡上状況調査および秋季のアユ仔魚の流下状況調査を実施した.遡上状況調査では,他河川で放流されたと考えられるアユも採集され,天然アユは最大でも各河川1尾ずつであった.また,流下状況調査では両河川ともアユ仔魚は全く採集されなかった.これらの結果から,2017年の両河川のアユ資源は低位な状況にあると推測され,資源保護・増殖のため現在の委員会指示を継続する必要があると考えられた.

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