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連載随筆

連載随筆・八雲が見た日本

 

巨木スダジイ自然を畏怖する心・八雲がとらえた日本の面影

日本有数のシイの巨木スダジイ。樹齢推定300年(松江市八雲町)

 

 

 八雲が亡くなったのは1904年9月26日、西大久保(東京)の自宅でのことだった。その数日前、彼がこよなく愛した庭の山桜が返り咲いた。子どもの頃、アイルランドの森には妖精(フェアリー)が、山には小鬼(ゴブリン)や精霊が飛び交っていたと回想する(「詩論」)。松江の根岸邸でも庭を眺める時を尊んだ。セツとの新婚旅行で鳥取の浜村温泉に向かう途中、中山町(現、鳥取県大山町)で巨大な松の根をご神体とする祠をみつけ大いに心ときめかせた。
出雲地方をはじめ、日本の樹木に魂があるとする信仰は「人間の役に立つべく創造されたもの」という西洋の一般的な価値観よりはるかに宇宙の真理に近いと八雲は感じた(「日本の庭」)。また、出雲の荒神信仰について、民衆は榎に宿る荒神を拝み、その根方をよくみると人形がささげられていることがある。これは、人形の持ち主が亡くなった時の習慣で、この地方では人形はたとえ壊れていてもゴミとして捨てられることがない、この美しい習俗に心動かされた(「杵築雑記」)。樹木信仰に加えて、神々のもとに還すリサイクルの精神をみいだしたのかもしれない。
いずれも日本の周縁地域の珍妙な土俗として喜んだのではなく、旅人であった自らの異文化体験を踏まえての発言である。実際、八雲が育まれたアイルランドでは、今も「妖精の木(フェアリー・トゥリー)」「願い事の木(ウィッシング・トゥリー)」など聖木がここかしこにある。樫の木というだけで、まず伐り倒されることはない。「願い事の木」にはたくさんのハンカチや衣類の一部など奉納品がおみくじのように結ばれている。それに向かってバスのドライバーがハンドルを放して手を合わせるのをみた時には、八雲が松江で荒神の根方に人形をみつけた時の心持ちを察することができた。八雲が松江に来て、アイルランド人としてのアイデンティティを回復していったのは「樹木信仰」という共通点をみいだしたからかもしれない。
旧八雲村(松江市八雲町)の桑並にある巨大なスダジイをご神体とする荒神には、よく県外からの来客を案内する。出雲の地に現代まで伝わる日本の面影を心に刻んでもらうためである。

小泉八雲ラフカディオ・ハーン(1850~1904)

ギリシャ生まれの作家。幼少期を父の実家のあるアイルランドで過ごす。1890(明治23)年8月から1年3カ月を松江で過ごす。日本の伝統的精神や文化に興味を持ち、「知られぬ日本の面影」をはじめ多くの作品を著し、日本を広く世界に紹介した。松江で武家の娘小泉セツと結婚。後に帰化し、小泉八雲となる。

 

小泉凡(こいずみ・ぼん)

1961年東京生まれ。成城大学・同大学院で民俗学を専攻。1987年に松江赴任。

現在、島根県立大学短期大学部准教授。

ほかに小泉八雲記念館顧門、山陰日本アイルランド協会事務局長など。ハーン直系の曾孫にあたる。


 

 

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