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連載随筆

現代に生きる出雲神話(連載随筆)雲の画像

 

加賀の潜戸(かかのくけど)妊婦を思いやる・藤岡大拙

 

 

佐太大神(さだのおおかみ)誕生の地とされる加賀(かか)の潜戸(くけど)

 

 

 

 

島根半島の加賀(かか)浦を抱くように、浦の東側に大きくつき出た岬がある

その先端に、三方に口を開く洞窟がある。加賀の潜戸(くけど)という神秘的な洞窟で、国の名勝及び天然記念物に指定されている。

 

出雲国風土記によると、この洞窟で佐太大神(さだのおおかみ)が生まれようとするとき、母神である支佐加比売命(きさかひめのみこと)の弓矢がなくなった。

母神が祈願をこめて、「この御子(みこ)の父神が麻須羅神(ますらかみ)(勇健な神)であるなら、なくなった弓矢よ、出てこい」と言われると、角(つの)の弓矢が、次いで黄金の弓矢が流れ来た。それを拾いあげ、「暗い岩屋だこと」と言って、金の矢を射通されたら、洞窟内が明るくかか(輝)やいた(近世以前は清音で発音)。それで加賀(かか)というのである。ところで、人が船でこの潜戸の洞窟の辺りを通るときは、大きな声を上げながら行かねばならない。もし、こっそり通ろうとすると、たちまち麻須羅神が現われて、つむじ風を起こし、船は必ず転覆する、と風土記は言う。

 

なぜ、こっそり通ると神が怒るのか。

おそらく、佐太大神をみごもっている支佐加比売命を気遣ってのことであろう。こっそり通った場合、精神的に敏感になっている彼女をびっくりさせるかもしれない。そのことによって、安産ができなくなるかもしれない。これは古代出雲人(こだいいずもびと)の間で行われていた妊婦に対する土俗の神話化であろう。

 

ひるがえって、現代の日本は少子化の波にあえいでいる。

子どもを生む好適な環境を早く整備することが叫ばれている。それは、単に制度的側面からだけでなく、精神的側面、つまり優しい心遣いも必要である。古代出雲人が持っていた温かい思いやりが今こそ必要である。

 

藤岡大拙(ふじおか・だいせつ)

 

島根県立島根女子短期大学名誉教授・島根県文化振興財団理事長・NPO法人出雲学研究所理事長・

島根県景観審議会委員長・出雲弁保存会会長。昭和7年、島根県斐川町生まれ。「出雲路の魅力」

「出雲人」「出雲とわず語り」、ほか著書多数。

 

 

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