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平成24年度再評価委員会からの意見具申

平成24年11月12日

島根県知事溝口善兵衛様

島根県公共事業再評価委員会

会長藤原眞砂

公共事業の再評価について(意見具申)

 本委員会は、島根県の公共事業の再評価について慎重審議を重ねた結果、下記のとおり意見を取りまとめましたので、これについて意見具申いたします。

 なお、県におかれましては、本委員会の意見を尊重し、公共事業の推進にあたられるよう要望いたします。

(記)

1平成24年度島根県公共事業再評価の結果の総括

 島根県では公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため平成10年度から再評価制度を実施している。事業の再評価の重責を担っているのが第三者機関である「島根県公共事業再評価委員会」である。

 島根県は県財政の再建のために、平成20年度から23年度までの4年間を集中改革期間に当て、毎年度見込まれた収支不足のうち200億円程度を解消し、収支の赤字幅を改善した。県は集中改革後も引き続き財政健全化に取り組み、29年度に収支均衡を目指している。

そこに至る基本方針は「行政の効率化・スリム化」、「財源の確保」と並んで、公共事業が関連する「事務事業の見直し」である(島根県『今後の財政健全化の取組み方針』平成24年3月)。

 公共事業費にあっては、補助公共事業、単独公共事業、維持修繕事業について、平成24年度、25年度の県費負担額(県債と一般財源額の合計)は、平成23年度と同水準を維持する方針が打ち出されている。公共事業費の縮減は、人件費の圧縮とともに歳出抑制のための大きな柱である。委員会もそのような県の大きな方針を念頭に置いて、公共事業の再評価に臨んだ。

 未曽有の惨状、惨劇をもたらした3.11東日本大震災からの復興は軌道に乗っているとは言い難いものがある。本年度も、東日本の復興、防災に関係する報道に日々接する中で、再評価委員会の審議は行われた。県民の生命・生活・財産の安全、安心を高めるインフラの構築を目指す公共事業の意義を再認識し、委員一同、使命の重さに一層の自覚を持った。

 本年度、委員会に付託された事業再評価の対象事業は、土木部事業7件、農林水産部事業4件、計11件である。

 本委員会は島根県が主体となり実施しているこれら公共事業を、

 ア.事業の進捗状況

 イ.事業を巡る社会経済情勢等の変化

 ウ.事業採択時の費用対効果分析の要因の変化

 エ.コスト縮減や代替案立案等の可能性

 の諸視点から再検討し、その事業継続の適否を評価することを目的とし、審議を行った(島根県公共事業再評価実施要綱第3条:再評価の視点)。

総括的意見

県は、財政再建下にあって、公共投資の留意点として「社会経済情勢を踏まえつつ、県勢の発展や県民生活のために真に必要であって、緊急的に実施すべきものについて、重点的に行う」としている。

事業を巡る社会経済情勢等の変化に関して、委員会メンバーが共有した問題意識を基盤に「総括的意見」を述べる。個別事業に対する委員会としての意見はこれに引き続き述べる。

(1)防災意識の高まりに応える着実な事業展開に対する要望

東日本大震災以降、国民の防災意識は一気に高まっている。「想定外」という言葉が国民の意識に浸透し、最悪の事態を想定して防災に備えるべきだとする考え方が、県民の間でも広まっているように思われる。

局地的集中豪雨、雷雨、竜巻等々、異常気象の報道に接する機会が多くなった。これに伴う不安はかつて大きな被害を受けた地域の住民においては高いものがあると思われる。県民にあっても、治水、治山等の防災公共事業に対する期待は高い水準にあると考えられる。

 以上のような県民の防災に対する思いを背景に、費用対効果(B/C)の数値を念頭に適切な事業推進が行われているかとの問題意識をもって、4.「河川総合開発事業」浜田川(第二浜田ダム建設)、6.「地域自主戦略交付金事業」益田港海岸を視察し、詳細審議した。前者は389億円を投じる巨大事業である。浜田市にあっては、昭和58年、63年と二度にわたって豪雨災害に見舞われ、洪水のため中心市街地が甚大な被害を受けた。

両事業とも島根総合発展計画の基本目標である「安心して暮らせるしまね」を目指す施策である「安全で安心して暮らせる県土を創る川(海)づくり事業」に位置づけられる重要な公共事業である。

県民の防災意識の高まりを踏まえ、委員会は県民の生命・財産を守る重要な事業としてこれら事業の着実な展開を要望したい。

(2)道路事業、とりわけ中山間地域でのそれに求められるスピードアップ

県独自の評価手法として「島根県道路事業評価マニュアル(案)」が平成23年4月に纏められ、昨年度の本委員会では早速4つの道路事業に、本年度も計4つの道路事業に、島根県道路事業評価手法が適用された。県内の国・県道の2車線改良率は65%で全国から20年遅れの整備水準とされている(『平成24年3月島根総合発展計画第2次実施計画』)。下記の道路事業は何れも上位計画である島根総合発展計画の基本目標である「安心して暮らせるしまね」を推進するもので、1.2.は「身近な生活道路整備事業」、3.7.は「幹線道路整備事業」に関係している。

これら事業の評価結果は以下のとおりであり、

「身近な生活道路整備事業」

1.【(一)大田井田江津線地域自主戦略交付金事業波積工区】

B/C1.27社会的効果35点総合評価aaaabb
2.【(一)大田井田江津線社会資本整備総合交付金事業都治工区】

B/C0.64社会的効果50点総合評価aaabbb

「幹線道路整備事業」

3.【(主)益田澄川線社会資本整備総合交付金事業笹倉工区】

 B/C0.63社会的効果50点総合評価aaabbb

7.【松江圏都市計画道路事業城山北公園線(1工区)】

B/C1.31社会的効果65点総合評価aaaabbb

人口過疎地域にある都治、笹倉工区の事業は島根県道路事業評価手法に組み込まれた社会的効果評価手法が活かされた事業であった。これらは、B/Cは低いが[それぞれ都治0.64、笹倉0.63で事業実施の判断の境界値(最低評価基準)の0.3を上回る]、高い社会的効果が加味されて、事業の意義が再確認された。

ただ、都治、笹倉に限らず、波積の場合も、いずれも過疎化が急速に進む地域での事業である。この中では波積地区の事業に関して、「公共事業のスピードアップ」が委員会で議論された。これは波積に限らず広く県内に拡がる中山間地域での交通事業に関係する事柄なので、本稿(2)を設定した。これに関連して、つぎのような意見を紹介しておく。

「中山間地域を取り巻く環境は、10年も経過すれば、大きく変わる。特に過疎地域を対象の工事はなおさらである。道路は開通したが、利用する住民は減少というのでは、事業に対する県民の理解を得ることが難しくなる。」

 道路事業に対する投資が、地域の「生活基盤の維持・確保」(『平成24年3月島根総合発展計画第2次実施計画』)のためになされるにしても、手遅れにならないタイミングでなされることを委員会は祈念するものである。

なお、[城山北公園線(1工区)]はB/Cも社会的効果も高い事業であるが、これらについても先の道路事業と同様、地域住民の理解、協力を得て平和裏に早期の完成がなされることを委員会として要望するものである。

(3)再評価審議に資する同種の過年度審議箇所の視察(フォローアップ)調査

昨年度は、懸案の隠岐の事業の詳細審議を行うことが出来た。また、これに伴い、過年度の審議箇所のフォローアップ調査も実施出来、非常に有意義であった。

1)フォローアップ調査はかつての審議が妥当であったかを確認する意義を有している。しかし、これとともに今年度はもう一つの意義を理解することが出来た。それは、

2)新たな審議事案と同種の過年度審議箇所のフォローアップ調査は、評価の支援情報を得るという大きな意義がある。

本年度は海岸保全施設整備事業(侵食対策)として益田港海岸を審議したが、これに関係して過年度審議箇所(平成21年度)で完成済みの持石海岸(海岸環境整備事業)の事業効果を視察出来た。これは事業の初期の効果が検証出来た、言わば「成功事例」であった。これは益田港海岸の事業の意義を理解する上で非常に有効な過去事例であった。また、成功事例ばかりでなく、過去事例に初期の意図が実現できなかった失敗事例もある場合、参考事例として学ぶことも委員会の向学に資すると思われる。

過年度審議箇所の視察・検証は現在の委員会事務局のご支援で昨年度始まったものである。再評価審議の客観性、正確を期すために知恵を絞った委員会事務局を始めとする土木部技術管理課の皆様のご尽力に感謝する。また、今回、再評価の対象となった県事業に関して、事業説明資料の作成、視察箇所でのご案内等に当たられた事業主体の関係各課の皆様のご努力にも深く感謝する。

(4)農林水産業関係公共事業による基盤整備と雇用政策の展開

上記触れた事業以外にも島根総合発展計画で、基本目標である「活力ある島根」に資する「産業基盤の維持・整備」に関係して、

5.港湾改修事業河下港

同じく基本目標「活力あるしまね」の下で「自然が育む資源を活かした産業の振興」政策を担う「売れる農林水産品・加工品づくり」施策である下記の事業が審議対象になった。

B/Cは何れも1以上であった。

8.県営林道開設事業北山線B/C1.89

9.水産環境整備事業島根地区B/C1.39

 10.水産基盤整備事業大社地区B/C1.34

 11.水産基盤整備事業恵曇地区B/C1.35

豊かな自然を産業基盤にした、これら「攻め」の諸施策と併せて、若年労働力が夢を抱いて労働参加出来る魅力ある雇用の場の創出の施策がなければ、活力あるしまねは実現しない。官民の漁業・林業の関係者の今まで以上の努力をお願いしたい。

総括すれば、公共事業再評価委員会は県事業11件のすべてを「継続」とした。今後の事業の展開に関して、さまざまな希望、要望、厳しい条件がついたものがある。関係する事業担当者の方々はそれらに関して十分な留意を払われたい。コスト削減の努力を引き続き行うことは言うまでもない。治水に関係した事業については県民の不安を緩和、払拭するためにも早期の完成に努めて頂きたい。また、道路事業に関しても然りである。

再掲するが「社会経済情勢を踏まえつつ、県勢の発展や県民生活のために真に必要であって、緊急的に実施すべきものについて、重点的に行う」『今後の財政健全化の取組み方針(平成24年3月)』という方針を貫徹して頂きたい。

2審議対象事業

 島根県が、再評価の対象として提出してきた事業は下記のとおりである。

 ○土木部7箇所

・(一)大田井田江津線地域自主戦略交付金事業波積工区

・(一)大田井田江津線社会資本整備総合交付金事業都治工区

・(主)益田澄川線社会資本整備総合交付金事業笹倉工区

・河川総合開発事業浜田川

・港湾改修事業河下港

・地域自主戦略交付金事業益田港海岸

・松江圏都市計画道路事業城山北公園線(1工区)

 

 ○農林水産部4箇所

・県営林道開設事業北山線

・水産環境整備事業島根地区

・水産基盤整備事業大社地区

・水産基盤整備事業恵曇地区

3現地調査及び詳細審議案件

 ○土木部6箇所

 (1)(一)大田井田江津線地域自主戦略交付金事業波積工区

 (2)(主)益田澄川線社会資本整備総合交付金事業笹倉工区

 (3)河川総合開発事業浜田川

 (4)港湾改修事業河下港

 (5)地域自主戦略交付金事業益田港海岸

 (6)松江圏都市計画道路事業城山北公園線(1工区)

 

○農林水産部3箇所

 (1)県営林道開設事業北山線

 (2)水産環境整備事業島根地区

 (3)水産基盤整備事業大社地区

4審議日程及び経過

第1回平成24年7月5日(木)

出席委員

安部康二、来海公子、木村和夫、宗村広昭、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、正岡さち、和田登志子(50音順)

 

再評価対象事業11箇所について、事業者から説明

現地調査及び詳細審議箇所の抽出

第2回平成24年8月3日(金)

出席委員

安部康二、来海公子、木村和夫、宗村広昭、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、正岡さち、和田登志子(50音順)

現地調査

 水産基盤整備事業大社地区

 港湾改修事業河下港

 県営林道開設事業北山線

 松江圏都市計画道路事業城山北公園線(1工区)

第3回平成24年8月30日(木)、31日(金)

出席委員

 安部康二、来海公子、木村和夫、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、正岡さち(30日のみ)、和田登志子(50音順)

現地調査(30日)

 (一)大田井田江津線地域自主戦略交付金事業波積工区

 河川総合開発事業浜田川

 水産環境整備事業島根地区

 (主)益田澄川線社会資本整備総合交付金事業笹倉工区

現地調査(31日)

 地域自主戦略交付金事業益田港海岸

現地視察(31日)

 21年度審議地区持石海岸環境整備事業

 20年度審議地区白上川安全な暮らしを守る県単河川緊急整備事業

 

第4回平成24年9月14日(金)

出席委員

安部康二、来海公子、木村和夫、宗村広昭、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、正岡さち、和田登志子(50音順)

 

抽出事業の詳細審議、及び、それ以外の対象事業の審議

第5回平成24年10月10日(水)

出席委員

安部康二、来海公子、木村和夫、宗村広昭、高田龍一、鳥屋耕次、藤山晶子、藤原眞砂、正岡さち、和田登志子(50音順)

意見具申案の審議

5詳細審議箇所の再評価結果

(1)【(一)大田井田江津線地域自主戦略交付金事業波積工区】→継続

 この路線は、国道9号の江津市浅利町から大田市大代町へ通じる16.5kmの生活関連道路で、大代町では主要地方道大田桜江線へと続く路線である。

また、将来の山陰道と浅利渡津線へも繋げ道路網整備によるネットワークが期待されている。

波積工区は、波積町内の全長1kmで現道拡幅とバイパスによる2車線確保と歩道の整備の計画で、事業費は6億1千万円、事業採択は、平成15年で、工事着手が平成22年である。

バイパスによる道路整備は、現道と繋がることが必要で用地補償の目途が立った平成22年工事着手との経過で、完了は平成27年度の予定である。現在の事業費の残りは2億円程度となっている。

この事業は費用対効果でB/Cが1.27、総合評価でも継続の指標が出ている。実際にこの道路は浅利地区から大代地区をつなぐ生活道路で、この道路が繋がることで島根県が進める道づくりの指標としての「地域活動の強化」、「事故・災害への対応」、「医療・福祉活動の支援」、「安心歩行」の効果が上がると認められる。

工事区間の長さや工法などから考慮すると、採択から用地補償までが7年掛かっており、時間が掛かりすぎているのではと思われる。

また、中山間地域を取り巻く環境は、10年も経過すれば、大きく変わる。特に過疎地域を対象の工事は尚更である。「道路は開通したが、利用する住民は減少。」というのでは、事業に対する県民の理解を得ることが難しくなる。

中山間地域では、どうしても工事区間が長く、工事費も大きくなり易く、道路整備状況は、人口密度の大きい地域と小さい地域を単純に比較することは出来ないが、公平性を欠くと感じられる住民も多いと思う。

生活道路の整備を計画される場合、定住人口の増加や、地域の連携のための交流を図るためにも、工期や用地補償等に地域住民の理解と協力を得て期間の短縮を図り、早期の完了を希望する。

(2)【(主)益田澄川線社会資本整備総合交付金事業笹倉工区】→継続

当事業は、災害時における避難経路を確保し集落の孤立解消や、幅員が狭く見通しが悪い区間が続くため車両のすれ違いや大型車の通り抜けが困難であることの解消、さらに迂回路が1路線あるものの狭隘なため離合困難箇所が数多く、実質当路線が唯一の生活道路となっている路線の改良事業である。また、当路線は、主要地方道として国道9号を起点として国道191号を経由し国道488号に通じる24kmの道路であり、高速道路・空港・港湾や観光・工業団地へのアクセス強化等、産業・地域振興、日常生活圏での中心都市・救急医療・公共施設等へのアクセス改善等、生活環境改善が期待されている。

 こうしたことから、益田市美都町笹倉から下波田町を結ぶ区間を幹線道路整備事業として平成15年度に事業着手した。進捗率は隣接する笹倉ダム再開発工事との事業調整もあったことから37%にとどまっているが、現地の整備状況は平成26年度トンネル工事着工に向けて起終点の整備が図られ、事業完了は平成28年度が見込まれている。

一方、費用対効果のB/Cは1.0を下回り0.63となっている。この主な要因としては、整備区間の約50%がトンネル、また、起終点付近に2箇所の橋梁や急峻な地形により事業費が著しく高騰したことによるものと考えられる。

 しかし、道路の果たす役割は、都市部も山間部も同じであるが、山間部はとかく道路が脆弱で、しかも道路密度が低く迂回路も限定されて一度通行止めともなれば、他の交通手段もなく、とかく集落の孤立となりがちである。一刻を争う災害等の緊急時の際や日常生活等「生活の基盤である道路」は暮らしを守る最重要課題の一つである。

 このように地域振興はもとより日常生活上必要不可欠なものであり、果たす役割は極めて大きく、県が「安全」・「安心」な幹線道路の整備として位置付けている当事業は、継続は妥当と判断される。なお、現状では平成28年度完成予定であるが建設スピードをアップし早期の完成を希望する。

(3)【河川総合開発事業浜田川】→継続

平成24年度第3回島根県公共事業再評価委員会の審議で、8月30日、31日の両日にわたり、現地調査を行った。浜田川総合開発事業は、平成19年度再評価対象事業として審議を行い、継続の方針を決定している。19年度の現地調査時点では、付替道路の工事が進行中で、第二浜田ダム本体建設は未着工であった。今回の現地調査では、第二浜田ダム建設施工現場でコンクリート打設の状況を見ることができた。堤体コンクリートの打設は、約60%と順調に進捗していた。前回の審議で事業導入の経緯、目的等は十分検討されているが、再確認の観点から事業概要を見つめてみる。

 浜田川総合開発事業は事業費389億円と、現在進められている公共事業再評価対象事業の中で最大規模の事業である。島根県西部は、昭和58年、63年と二度にわたって豪雨災害に見舞われた。浜田川は、中心市街地を流下していることから、洪水が発生すると、その被害は甚大である。58年7月豪雨は、当時の記録(山陰中央新報社:58年7月島根県西部豪雨災害)によれば、20日未明の降り始めから23日までの雨量は、那賀郡弥栄村(現浜田市弥栄町)で555ミリにも達した。時間雨量90ミリ豪雨の恐怖は今日でも人々の記憶に残っている。

 事業概要は、再開発の浜田ダムは洪水調節も目的で、既設のゲートを取り除いて、現在の一定量放流方式を自然調節方式に変更し、浜田ダム地点の基本高水流量690m3/秒のうち、330m3/秒の洪水調節を行うものである。浜田川を拡幅することは、住居及び市街地施設の立ち退き等社会情勢に多大の影響を与えるため、浜田ダム再開発と第二浜田ダムの建設によって、基準地点(浜田大橋)の基本高水の最大流量1,060m3/秒を計画高水流量400m3/秒に低減させることにしている。

 以上のように、この地域にとって重要な事業であるため以下の事項に留意し、事業を実施されることを切望する。

1.浜田川の下流部(第二浜田ダム建設地内より下流)の河床整備について

第二浜田ダムの完成予定は、平成28年度となっている。ダム完成までの洪水被害対策として、河床維持は重要な備えである。維持工事は、通常の維持管理の範囲で対処できればいいが、河床に堆積している土砂や草木は洪水被害を招く恐れがある。予期せぬ集中豪雨にそなえて、重点的な河川維持を行う必要がある。

 次に、ダム建設工事では通常の流下水は、ダム堰堤の仮排水路から通水を行っている。集中豪雨時には、施工中の堰堤を越流することが予測される。洪水に備えて、工事現場の管理を行い、不測の事態に対応することが肝要である。

2.完成した尾原ダムで、貯水後に水漏れが発生したとの報道があった。第二浜田ダムにおいても、河床、左右両岸の法面にボーリング、セメントミルク注入等で岩盤補強がされていると思うが、ダムの水漏れ対策はダム本体工事の中でも重要であり、慎重な対応をお願いする。

3.第二浜田ダム建設地点は、民家が比較的近くに点在している。建設資材の搬入や、工事関係車両が多く通行しているが、工事専用道路は急勾配と急カーブで危険を伴う状態であった。騒音、粉塵等工事による被害防止のために、コンクリート打設は夜9時までとしていた。地域住民の協力を得て、自然環境、生活環境を守りながら、安全な工事管理を図るとともに、広報活動の運用によって、費用効果を挙げる事業推進を目指してもらいたい。

(4)【港湾改修事業河下港】→継続

本事業は、出雲市河下町に位置する河下港の物流効率化と防災拠点整備及び通年の安定した利用を図るため、マイナス7.5m耐震強化岸壁L=130m及び防波堤(沖)L=310m等を整備するものである。

 本港は県東部の物流、防災の拠点であり、また県民のライフラインを支える重要な港であることから、年間を通じ安定した利用が可能となるよう防波堤(沖)の早期完成が待たれているが、平成9年度工事着工以来16年を経過し、平成29年度完了予定で進捗状況59%(平成24年度末)という長期化した事業であるため、これまで何度か事業再評価の対象となった経緯がある。

 長期化の要因はさまざまであると思われるが、県東部の拠点港に位置付けられながら風浪時に岸壁が利用できない状況が改善されないため、物流拠点としての安定した利用が果たされず、出雲圏域の経済や産業に支障をきたしたり、LPガスの安定供給が果たせないため県民のライフライン確保が困難となることは大きな問題である。また、事業を取り巻く社会情勢は東日本大震災により、港湾における代替港の重要性や耐震性能の強化の必要性が再確認された。

 こうした状況のなか、事業は順調に進められているが、コスト縮減対策として「上部斜面堤」工法の採用により、かなりの減額が図られることは大いに評価できる。

 事業に対する地元の対応は、平成22年度市、県、民間が一体となった「河下港振興会」が設立され、早期完成を望む声が各方面に強く働きかけられており、今後の動きに期待したい。事業による環境へ及ぼす影響は、専門家の意見を取り入れるなど配慮がなされており問題はないと思われる。

 残された事業の防波堤(沖)L=310mは、平成24年度より着工され平成29年度末の完成を目指す計画である。本事業は全ての事業が遂行されてこそ事業効果が高まり、さまざまな懸案事項が解決されることは云うまでもない。よって継続が妥当と判断する。

 しかしながら、長い年月を費やすこの継続事業が港湾改修事業の特性として県民がどこまで理解できるのか、また事業の将来的な展望が地域住民にどこまで理解と協力が得られるのか、今一度検討していただければ幸いである。今後の事業の展開は、事業遂行上の困難を乗り越え、平成29年度末の完成を目指して鋭意努力されることを望みたい。

(5)【地域自主戦略交付金事業益田港海岸】→継続

 益田海岸は、三里ヶ浜と呼ばれ、かつては東西約13kmに及ぶ白砂青松の美しい海岸であったが、昭和50年代頃から砂浜の侵食が始まり、平成3年には冬季の波浪によって大規模に被災した。近年における汀線(海岸線)は昭和22年に比べ約50mも後退しており、最も顕著な時期には5年間で20mも後退し、放置すれば背後地の民家や道路にも被害が及ぶ可能性があるほか、海岸の利活用の面で大きな支障が生じて来ている。

 本事業は、こうした海浜の侵食を防止するとともに失われた砂浜を復元するため、平成5年度に採択された。計画期間は平成5年度から28年度までの24年間で、離岸堤4基(延800m)、養浜75,000m3を整備するものである。着手後20年を経過した現在の進捗率は82%、3基の離岸堤が完成し、残る1基は整備中であり25年度に完成予定、その後に養浜が実施される予定である。

 本事業の実施においては、海浜を取り巻く自然のメカニズムが解明されていない状況の中、それぞれの整備個所において実施後の検証を踏まえながら次期整備を行うこととしており、事業予算措置とも相俟って長期にわたる事業となっている。

 効果については、既に整備された3基の離岸堤により、波浪の影響が緩和される状況が確認できるほか、平成11年度と平成17年度に整備された4号及び1号離岸堤によって、背後へ漂砂が定着する効果も検証されている。

島根県では200kmに及ぶ海岸保全事業に取り組むため、平成7年度に「島根沿岸海岸保全施設の整備基本計画」を策定している。この計画の中で益田港海岸は「悠久の時をうたう浜ゾーン」に位置づけ、海岸の侵食対策を実施し連続する砂浜を保全することとしており、失われつつある美しい国土(県土)の保全と県民の生命・財産を守る重要な事業として、今後も積極的に取り組む必要がある。

(6)【松江圏都市計画道路事業城山北公園線(1工区)】→継続

 本事業は、松江市橋北の松江城から国道485号を結ぶ幹線道路を拡幅する工事である。平成15年度に採択されたもので、平成26年度完了予定である。総事業費76億円、現在の進捗率は事業費ベースで87%である。

 本路線は周辺に松江城、松江地方裁判所、松江赤十字病院、島根県民会館、松江市北公園等があり、橋北の中心市街地を東西に結ぶ場所に位置しており、加えて、松江赤十字病院等の防災拠点施設や避難場所への緊急輸送道路としての役割を持つ主要な路線である。そのため車の交通量が非常に多い。また、本線から少し入ると住宅街となっていること、近辺に小学校・中学校・高等学校等があること等から、歩行者や自転車の通行も多く、多方面から利用されている路線でもある。

しかし、その利用度の高さにもかかわらず、現状を見ると、昔ながらの「武者隠し道路」と呼ばれる鍵型をした形の上、車線数も少なく狭いことから車の通行に支障が出ることが多く、それは周辺の生活道路への車の流入を引き起こすことにもつながっている。また、徒歩や自転車でこの路線を利用することが多い地域住民にとっては、車の交通量が多いにもかかわらず、歩道が狭い上に傾斜や段差があったり電柱によって通りにくかったりと危険な個所も多く、安心して通れないという不安がある。このような状況のため、緊急輸送道路としての役割にも支障をきたす場合があることも容易に考えられる。

一方、本路線を松江市将来交通計画から大局的に見てみると、くにびき道路、国道9号、宍道湖通りを結ぶ内環状道路の一部であり、橋北の都市機能の面で大きな役割を担っている。加えて、松江第五大橋から国道9号松江道路で構成される外環状道路に続く道としての役割も担うことになり、計画段階にあると聞いている島根県民会館前の道路の整備もあわせると、松江市の都市機能において大きな役割を持つ路線であると言える。

 以上のことから、この路線は単なる一路線の整備というだけでなく、1)都市機能の強化、2)緊急輸送道路、3)地域住民の日常生活における安全確保、4)周辺市街地交通安全の向上、5)中心市街地の活性化、6)渋滞の緩和、といった多くの役割を果たすものであり、すべてが完成すれば大きな効果が期待されると考えられる。

 問題点としては、まだ一部の住民からの理解が得られておらず、用地補償が95%という点であろう。多くの意義を持つ工事ではあるが、地域住民にとっては非常に大きな工事であり、場合によっては痛みを伴う工事でもある。本質的で誠意ある説明で松江市民全体から真の理解を得ることは事業者に課せられた責任であると考える。

 また、未着手の部分に地域住民にとって非常に危険な個所が何か所か存在している。最終的には事業完成時に改善されるものだが、それはかなり先の話である。手順に沿って工事を行うだけでなく、場合によっては、現時点で地域住民が危険を感じている部分の改修を行う等の配慮も必要ではないかと考える。

 島根大学の林正久教授によると、「武者隠し道路」を含めて昔ながらの道がこれほど多く残っている都市は珍しいとのことである。その遺産の一つを犠牲にして工事に着手したからには、意義のあるものになることを期待したい。

(7)【県営林道開設事業北山線】→継続

本事業は、松江市東持田町から鹿島町御津地区を結ぶ林道澄水山線の中間付近を起点とし、枕木山を通る県道枕木山線の終点部を終点とする全長6,800m、幅員4.0mの路線を整備するものである。路線は中海北側の北山山系に位置し西側から大平山、澄水山、三坂山、枕木山と標高500m前後の山々のほぼ尾根部分を通る線形となっている。利用区域内(518ha)の森林資源の効率的な森林施業・林業労働環境・生産性の向上等を図るために、幹線となる林道の必要性が高まり、かつ、地元からの強い要望があり事業を導入した。費用対効果(B/C)は1.89である。平成15年度に採択され、平成28年度に完了予定の事業である。総事業費8億8千万円であり、現在の進捗率は80.1%である。

本事業によって林道が開設・整備されることにより、林道から作業道や作業歩道が作られ、今まで行き届かなかった箇所の伐採や植栽が行われるようになる。結果として次世代の森林に更新される循環型林業が促される。また、林道開設前には切り捨て間伐が中心であったが、今後搬出間伐も可能となり森林資源の有効活用に繋がると考える。

 なお、路線内には希少な生物が生存するが、毎年環境調査を実施し、工事実施時期に配慮している。また、種子吹付の基盤材に県産間伐材や根株等リサイクル資材を使用するなど環境への影響を極力抑える努力をしている。

 以上のことから、森林の公益的機能・木材生産機能の向上を目的とした森林施業の円滑化のために事業継続が必要と考える。

 

(8)【水産環境整備事業島根地区】→継続

 本事業は、島根県本土周辺海域において、工区毎に魚礁を設置した新たな漁場の造成による水産資源の永続的な利用・増大を目的とする事業である。平成14年度に採択、現時点で進捗率74%、未着手のものも含め残り14工区、平成28年度に完了予定となっている。

 魚礁の設置というこの事業は、例えば道路整備のような開通までの継続が必要な事業や、地滑り対策のように暮らしの安全のための緊急性が問われるものではない。また自然相手の性格上、効果の明確な数値化は難しい。事業予算の厳しい現状の中で、委員会でも継続か中止か、意見交換がなされた。

 ただ、長い海岸線と良好な漁場を有す島根県にとっては、漁業就労者の高齢化や後継者不足などによる漁業自体の衰退は、危惧すべき問題である。魚礁が設置されると実際、地元の漁師たちはほとんどその周りで操業すると聞く。この事業は各所、陸地より船で移動することほぼ平均1時間以内の場所に設置予定である。燃油経費や移動時間の節約は漁労者にとって、よりよい就労環境をもたらすであろう。地元要望の期待も高く、漁業の未来を担う事業として必要と考え、継続とする。

「森は海の恋人」という言葉がある。海を守るために森林の荒廃を防ぎ豊かな森を作ろうという活動のスローガンとして知られている。この事業では自然環境に配慮したホタテやカキ殻などを付けた魚礁も採用しているが、間伐材などを取り入れた魚礁も検討願いたい。間伐材魚礁は、耐用年数3〜4年と短いものだが、魚の餌になるゴカイ類や海藻の付着が早く即効性があるとの報告もある。他の素材(鋼鉄・コンクリートなど)と組み合わせるなど新工法の魚礁を探ってもらいたい。林業と水産業の恊働は、海と森林が広大な島根県ならではの付加価値を生むことを期待できる。陸上では巨大な構造物に見える魚礁だが、広い海原では極々小さなもので、しかも海中に隠れている。多くの県民の関心と共感を得るためにも、林業従事者を含め地元民の参加意識を高め、自然環境を守る方向の事業展開を望む。

(9)【水産基盤整備事業大社地区】→継続

 本事業地区は、島根半島西部に位置する中核的な漁港である大社漁港の機能の強化を図ることを目的とした事業である。この地区は近海が県内有数の好漁場に恵まれており、県内の水産業の発展にとっては有力な漁業基地と考えられる。特に、衛生管理型荷捌き所の整備により小田、湖陵漁港と連携した市場統合が予定されており、地域の重要な水産流通拠点としての役割も重要となっている。

本事業においては、こうした漁業拠点港の整備として計画されたものであり、港内の防波堤、岸壁、泊地・航路、道路などが計画され、当初計画事業については、越波による冬季の静穏度対策である防波堤の改良を残しほぼ完了を見ていたが、新たに漂砂による航路の閉塞が課題となり、平成22年度に計画の見直しに迫られ着工後10年を経過したものである。

見直しによって生じた新たな工事として、漂砂対策のための防砂堤の整備、サンドポケットの整備と航路の浚渫となっており、これらの事業と防波堤の改良が今後の残事業となっている。

事業の計画性、長期化について特に問題点は見られず、継続は妥当であり、現在完了予定年度が平成28年となっているが、漁業者の高齢化、担い手の確保対策を考慮すると、できるだけ早い完成を期待する。

なお、本県の一次産業の現状を見るに衰退の傾向は否めず、とりわけ従事者の高齢化、担い手の確保が重要な課題である。行政当局に置かれては、こうした課題を解決するために合理的な基盤整備が不可欠であると同時に、そのための時間との戦いも重要である。厳しい財政状況にあって、今後の産業振興ひいては地域振興のための優先度を見極めた事業実施に期待する。

6その他の審議箇所の再評価結果

下記2箇所の事業については、詳細審議は行わなかったが委員会の異論はなく、事業者からの対応方針案のとおり、「継続」が適当であるとの結論に達した。

 ・(一)大田井田江津線社会資本整備総合交付金事業都治工区

 ・水産基盤整備事業恵曇地区


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