ナラ類の集団枯死( ブナ科樹木萎凋病 )による被害
●ナラ類の集団枯死(ブナ科樹木萎凋病)被害とは
近年島根県の西部地域においてコナラが夏から秋期に葉が赤褐色に変色して枯れてしまう被害が広がっています。これはカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)(以下カシナガと略記)という小さなナガキクイムシが媒介する病原菌(Raffaelea quercivora)、通称ナラ菌によって引き起こされる萎凋病であることがわかってきました。

ナラ類の集団枯死被害

カシノナガキクイムシ成虫
●カシノナガキクイムシの生態と枯死被害
島根県では,このカシナガ成虫が5月下旬から6月下旬に前年被害枯死木の材内から脱出します。脱出したオスは体長が4.5mm前後で、コナラ(ミズナラ,アベマキ)など加害樹種の幹の主として下部に直径が1.5mm程度の孔道をあけて材内に穿入します。このとき、胸高直径が30cmを超えるような大径木(老齢木)に多数のカシナガが加害する傾向があります。
オスが材内に孔道をつくるとメスが飛来し、孔道内に産卵します。このときメスは胸部背面の中央部に5から10個の菌のうと呼ばれる円孔の器官にナラ菌をはじめとする数種類の菌の胞子を貯蔵しており、こらの胞子を孔道壁面に接種して菌を孔道内で増殖させます。孵化した幼虫はこの菌糸を餌に成長します。すなわち,カシナガとナラ菌は共生関係にあります。
加害された樹幹内に、このナラ菌が広がると辺材部に暗褐色の変色域が形成されます。変色域では水分の通水阻害が発生しますが、変色部が辺材部の大半に広がると樹幹内全体で通水が阻害される結果、樹体は急速に萎凋状態となって枯葉を枝に付けたまま枯死します。

カシナガの穿入孔道(矢印)と、ナラ菌の感染によって黒褐色に変色した被害木の木口断面
●カシノナガキクイムシ被害の見分け方
被害木には次のような特徴があります。
1 被害木の幹には1.5mm程度の穿入孔が多数見られ、枯れ葉を枝に付けたままで枯死します。
2 穿入孔から多量の木屑と虫糞の混合物(フラス)が排出され、しばしば幹の地際部に堆積します。
3 被害は大径木(老齢樹)に多く、特に地際から高さ2m以下に集中します。
4 ナラ菌が材内に広がると辺材部に暗褐色の変色域が形成されます。 
地際にフラス(木屑+虫糞)が白く堆積
●カシノナガキクイムシ被害の防除法
防除は、松くい虫駆除で用いられる成虫脱出前の焼却や、チップ化するほか以下の方法があります。
1 ビニールを巻く予防法(京都府林業試験場)
被害木の周りの健全木の地際から2mまでをビニールシートで覆い、その上下をビニールテープで固定してカシナガの加害を防ぐ方法です。また、被害木に同様にビニールを巻くことによって、カシナガを閉じこめ感染の拡大を防ぐことも可能です。
2 NCSくん蒸剤による樹幹注入する駆除法(山形県森林研究研修センター)
枯死木の樹幹下部にドリルで穴(下部:10cm千鳥,上部:20cm千鳥)を開け、そこへNCSくん蒸剤を注入する方法。注入孔は布製のガムテープを巻いて塞いでおきます。
3 被害木にシイタケ種ゴマを植菌する方法(京都府林業試験場)
枯死木にドリルで穴を開けシイタケ菌を植菌する方法で、ナラ菌はシイタケ菌の伸張を阻害しません。変色部分へもシイタケ菌糸が伸長し、カシナガの発生を抑制する効果があります。
※いずれの方法も被害発生の先端地域など被害が少ない場合に限られます。被害発生区域からの被害木の移動には注意が必要です。また現在,集合フェロモンや粘着剤を用いた防除法が研究されています。
●島根県における被害状況とその発生形態
1 被害発生区域
本県におけるナラ枯れ被害記録 (広域合併前の市町村区分で示す)
昭和61年 美都町
平成 7年 日原町
平成 8年 弥栄村、三隅町
平成13年 浜田市、金城町
平成15年 益田市
平成16年 江津市
平成17年 旭町、匹見町,津和野町
平成18年 柿木村、桜江町
平成19年 石見町、川本町、温泉津町、大田市
平成20年 六日市町、瑞穂町、邑智町、仁摩町、大社町
平成21年 雲南市、松江市

2 発生形態
島根県の被害発生状況は被害が発生した場所から周囲へ連続的に拡大するだけでなく、離れた場所に突発的に発生することもあります。通常,大径木を中心に集中的な加害を受け、枯死します。小中径木は加害を受けても枯死に至らないものも多くみられます。このように、被害林では、すべての加害木が枯死するわけではありません。また、被害は発生して2から5年程度で被害が終息し、別の場所で新たに発生するという被害形態です。そのため、1林分あたりの被害本数も数本から多い年で20から30本程度が多いようです。
これまでナラ類は薪炭材やシイタケ原木として積極的に利用されてきました。しかし、近年はこれらの利用が減少したことから過熟林分が増えたためにこうした病虫害が発生するようになったのでしょうか?ナラの枯損は大径木に枯死被害が多いことから、これらのコナラ、ミズナラを積極的に利用することも大切です。(以上、島根県中山間地域研究センター 森林保護育成グループ資料)
●全国の被害状況
本州の日本海側を中心に発生している。被害区域は平成10年度に8府県で278ha、平成20年度には20府県で1,445haと拡大傾向。
●カシノナガキクイムシに関する情報
【独立行政法人 森林総合研究所関西支所】
プレスリリース「ナラ枯れのメカニズム・防除方法などの最新情報まとまる」
http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kouho/Press-release/2007/kansai070615.html
パンフレット「ナラ枯れの被害をどう減らすか 里山林を守るために」
http://www.fsm.affrc.go.jp/Nenpou/other/nara-fsm_200703.pdf
プレスリリース「カシノナガキクイムシ集合フェロモンの化学構造を解明」
http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kouho/Press-release/2004/kikui050323.html
【林野庁】
カシノナガキクイムシの防除方法
http://www.rinya.maff.go.jp/seisaku/sesakusyoukai/mamoru/2-1.html
【林野庁 京都大阪森林管理事務所】
情報コーナー「被害木を発見したら御連絡を」
http://www.kinki.kokuyurin.go.jp/kyoto/jyoho/190713kasinaga/190713kikuimusitaisaku.html
【京都府林業試験場】
ナラ・カシ類の集団枯死被害防除法 環境にやさしい防除法の開発
http://www.pref.kyoto.jp/rinshi/resources/1184825615620.pdf
【岐阜県森林研究所】
岐阜県におけるナラ類集団枯損被害 ほか
http://www.cc.rd.pref.gifu.jp/forest/rd.html
【島根県中山間地域研究センター】トップページ http://www.pref.shimane.lg.jp/chusankan/
【島根県西部農林振興センター(浜田地域林業普及グループからのお知らせ)】
林業普及ブログ記事「カシノナガキクイムシによるコナラの被害広がる」ほか
http://blog.goo.ne.jp/f-hamada/c/f9367d3b7e762d0250fad4de8492cfe9
【平成19年度島根県中山間地域研究センター研究成果発表会】
http://blog.goo.ne.jp/f-hamada/e/4b6dc38eaa61a0b1f3af4dbd031ef556

