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島根県農業試験場研究報告第13号(1975年12月)p111-135

 


イネごま葉枯病菌による穂枯れの生態と防除に関する研究


足立操、山田員人


摘要

 島根県ではごま葉枯病菌による穂枯れが普遍的に発生し、減収と米質の低下をきたし、稲作の大きな阻害要因となっている。そこで筆者らは1966年から’71年まで本病の発生生態と防除法について検討した。その概要は次のとおりである。

 

  • 島根県における穂枯れは県下のほぼ全域にわたって発生し、特に、飯梨川、斐伊川、江川、周布川、高津川など主要河川流域の砂質の沖積地で漏水の激しい秋落地帯に多かった。

 

  • 島根県に発生する穂枯れ罹病穂からは9種類以上の菌種を分離した。そのなかで穂枯れの病原菌としてはごま葉枯病菌とすじ葉枯病菌があげられ、特に前者の分離率が高く、しかも県下に普遍的に分布しており、すじ葉枯病菌によるものは県東部に局地的に認められた。

 

  • 穂枯れ罹病穂からと葉身病斑から分離される菌は同種のものが多かった。また、ごま葉枯病罹病穂の各部位から病原菌が分離されたが、ミゴ、穂軸、枝梗よりも籾からの分離率がわずかに高かった。

 

  • 穂枯れ罹病穂からの病原菌の分離は薬剤による切片の表面消毒法と湿室による方法では主要菌種に大きな差異がなかったので、湿室での確認が簡易で省力的である。

 

  • 穂枯れの被害は穂ばらみ期以後の接種では時期が遅くなるほど精玄米重が軽く減収した。また、籾の発病程度が高いと米粒はやせ、玄米千粒重が軽く減収し、しかも米粒のPH低下、全窒素含量の増加、澱粉細胞の大きさの不揃と配列が乱れるなど、品質の低下がみられた。更に播種した場合には発芽率が低下し、幼苗生育も劣って立枯率が高くなり、病斑も多くなるなどー次感染が増加した。

 

  • イネ穂上におけるごま葉枯病菌分生胞子の発芽は5から35度Cの範囲で認められ、20−30度Cが最良で3時間後には90%、6時間後にはほぼ100%に達した。

 

  • 病原菌の侵入は、籾では5−35度Cの温度範囲で行い、20−30度Cが良好で、侵入までの時間は短かく、侵入率も高かった。穂軸,枝梗でもこれとほぼ同ーと推定される。その際の空気湿度は籾では開花期には70%、糊熟期には90%以上、穂軸、枝梗では開花期には90%、糊熟期には85%以上を要した。

 

  • 病原菌の侵入場所は、籾では毛茸からが大部分で、大型毛茸、気孔からもわずかに侵入した。穂軸で観察が十分でなかったが気孔から侵入するものがみられた。

 

  • 潜伏期間は開花期の籾では10度Cで28時間、15−30度Cでは10時間前後、糊熟期は開花期より長く20−30度Cで17−20時間であった。穂軸、枝梗では開花期、糊熟期とも15−30度Cで20時間程度、10度Cでは60−130時間で籾より長かった。

 

  • 籾の病斑は開花期には拡大が速く、大型病斑となり、糊熟期以降の感染では病斑の拡大が鈍く、小斑点にとどまった。穂軸、枝梗は灰緑色水浸状の小斑点から褐色の条斑となり、更に伸展して軸を病斑がとりまくと、そこから上が枯死するとともに、下方へ漸次拡大する。そのため穂の枯れ下りが生じ、穂の枯死は次第に増大する。

 

  • 穂のごま葉枯病菌に対する感受性は、籾では出穂直後が高く、日数の経過とともに、低下したが、穂軸、枝梗では籾とは逆に出穂直後が低く、糊熟期以降に高くなった。

 

  • 分生胞子の形成温度は5−35度C、適温は25度C付近であった。また、分生胞子形成空気湿度は87%以上を必要とし、高温度ほど良好であった。

 

  • 葉身での分生胞子の形成は、生葉では斑紋型病斑にわずかに形成され、斑点型病斑にはほとんど形成されなかった。しかし、罹病枯死葉では病斑及びその付近に多量の分生胞子を容易に形成し、葉身や穂への伝染源として重要な役割を果しているものと考えられた。

 

  • 穂軸での分生胞子形成は穂軸をとりまいた褐色の病斑では容易で、条斑では病斑の周囲がやや黄化した場合に形成された。しかし、小斑点、淡紫褐色汚斑では形成しなかった。また、籾では紫褐色の大型病斑には形成が多かったが、他の病斑ではほとんど形成しなかった。

 

  • 罹病穂上に形成された分生胞子は風によって飛散し、風速が速いと量も多かった。また、降雨中でも分生胞子は飛散したが、雨滴とともに流下するものもかなりみられた。このことから早期発病穂から分生胞子の飛散、雨水、霧による流下などの伝染が考えられた。

 

  • 圃場における分生胞子の飛散は、出穂期頃には少ないが、糊熟期頃から急増して黄熟期頃までは多く、その後は減少した。穂軸、枝梗の発病も糊熟期頃から認められるようになり、胞子飛散の急増期と合致し、穂発病と深い関連がみられた。

 

  • ごま葉枯病多発生地帯で同一品種を栽培した15園場を対象に葉身と穂の発病との関係を調査したところ、両者の間にほとんど相関がなく、また、枯死葉と分生胞子飛散量との間にも相関はみられなかった。しかし、1葉当り病斑数と分生胞子採集数との間には相関が認められる場合が多かった。

 

  • 開花期と糊熟期のイネに遮光、土壌乾燥、断根、降雨などの処理を接種前と接種後に施したところ、開花期に接種前の断根により発病を助長し、乾燥処理は発病が抑制された。降雨処理は接種前又は接種後でもおおむね発病が増加した。その他の処理では発病に判然とした影響が認められなかった。

 

  • 田植時期が早いと穂枯れの発生は多く、葉身の病斑も同様の傾向となり、特に、斑紋型病斑の割合が増加した。早植えでの穂枯れの多発生は感染時期の気象条件が遅植えより発病に適し、しかも、イネの感受性が高いなどの影響によるものと推察された。

 

  • 多窒素は発病が減少したが、りん酸、カリはほとんど影響がなかった。

 

  • 晩期追肥は幼稲形成期、減数分裂期、穂揃期の3回分施の発病が少なく、1−2回分施ではやや多かった。

 

  • 製鉄鉱滓、ベントナイト、珪カルの施用は初年目にはわずかに発病を抑制した。持続効果は認められなかった。しかし、赤土は施用後3年間はわずかながら効果を認めた。

 

  • 穂枯れ防除薬剤として有機錫粉剤、マンネブ水和剤600倍液、マンゼブ水和剤600倍液、EDDP粉剤が優れており、S-47127水和剤1,000倍液、同粉剤、6057粉剤、84578乳剤1,000倍液、同粉剤、B-30PT粉剤なども有効であった。

 

  • マンゼブ剤は予防効果が優れ、感染後の散布効果は劣った。また、散布後の降雨による防除効果の減退は少なく、耐雨性のあることが明らかとなった。

 

  • 薬剤の散布時期は出穂当初より遅い時期の効果が高く、特に糊熟期の散布が優れた。したがって、被害軽減と効果の安定からは、乳熟期と糊熟期の2回散布が適切と考えられた。

 

  • 本病の防除にあたっては、極端な早植えをさけ、土壌改良資材の施用、窒素の多施と晩期追肥の回数増加など、耕種的にイネの生育の健全化を図るとともに、出穂後は薬剤散布によって直接感染を防止するなど、総合的な対策を実施することが望ましい。
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