ラテックス凝集反応を利用した乳房炎簡易診断技術の検討

はじめに
酪農経営において、乳房炎発生による経済的損失は甚大であり、その防除法の確立が課題となっています。
原因菌に特異的な乳房炎治療を実施するためには細菌検査が必要ですが、経験的な治療が優先されているのが現状です。
乳房炎の主要な病原体である黄色ブドウ球菌(S.aureus:以下SA)による経済被害は大きく、その早期診断法の開発が求められています。本研究では、臨床症状等を伴う乳房炎における早期診断、牛群中に存在する潜在性あるいは慢性乳房炎牛の診断、摘発に資するため、精製莢膜多糖体抗原5型(SPA5)に焦点を当て、SA性乳房炎の簡易診断技術としてラテックス凝集試薬の開発を行いました。
基礎実験
SAの菌体抗原および病原因子として莢膜が重視されています。SAの莢膜血清型は11型が知られており、そのうち5および8型が臨床分離株に多いとされています。しかしながら、島根県内の莢膜血清型の調査は実施されていないため、島根県内の乳房炎罹患牛から分離したSA 87株(30農場)の莢膜血清型調査を実施しました。
また、SAによる乳房炎時に、乳汁中のイムノグロブリン濃度が上昇するか、SPAを抗原としてELISA検査系を作成し、起因菌の判明している乳房炎乳汁58例を用いて、乳房炎乳清中の抗体価を測定しました。
莢膜血清型別調査の結果
莢膜血清型別調査の結果、 県内分離株の67.5%がSPA5型を、10.8%がSPA8型を保有していました。
乳房炎乳清中の抗体価測定
SA分離乳清のみでIgG2抗体価の上昇がみられました。
また、特異性を測定するために、SAが分離された個体乳40例の抗体の測定を行ったところ、63%が抗体陽性でした。

診断試薬の開発
基礎調査に基づき血清型5型の精製莢膜抗原(SPA5)を用いた診断薬を作成し、野外応用の可否を検討しました。
材料および方法
簡易診断試薬としてSPA5を抗原としたラテックス凝集反応試薬を作成し、細菌検査結果の判明している乳房炎乳101例を用いて急速凝集試験を実施しました。凝集の強さはスリープラスからマイナスまでの5段階で判定しました。

成績
ラテックス凝集反応試験の結果、SPA5型SAが分離された乳清では23例中12例(52.2%)で陽性となりました。
考察
県内で分離されるSAの大部分はSPA5型で、SPA5型分離乳清の63%が乳清中抗体陽性を示すことが判明しました。この知見をもとに作成されたラテックス凝集試薬の特異性は高いことが判明しました。診断感度は基礎試験で実施したELISA試験成績と同等あるいは若干低い程度であり、乳汁からの抗体検出試験系として、簡易かつ有用であることが示されました。臨床応用にはさらなる操作手技の簡素化と試薬の検出感度の向上が必要だと考えています。