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高齢者の低栄養予防の取組

 

奥歯を守り、咬む機能の保持増進を図ることが、生活習慣病の予防・治療を支える適切な食生活の確保に直結し、生活の質の向上へとつながる。

在宅医療においては、医療的ケアとして褥瘡管理、経管栄養管理を行うことが多いことから、在宅医療が必要になる前の生活が比較的自立しているころからの高齢者の低栄養予防が重要であると考えられます。そこで、歯科保健の切り口から高齢者の低栄養を予防することを目的に、「高齢者の低栄養予防対策事業」を実施しています。

 

平成25年度の取組

 

1.高齢者の口腔機能と栄養との関係の文献調査

 

歯科保健の切り口から高齢者の低栄養を予防することを目的に、口腔機能が低栄養に及ぼす栄養についての知見を蓄積するため、高齢者の口腔機能と栄養との関係についての文献調査を行いました。

 

【文献調査結果の概要】

(1)健康な高齢者の歯・口腔と低栄養

○新潟市内在住70歳512名(男265、女247)を調査した結果、男性の咀嚼能力の低い群で、総エネルギー摂取量、緑貴色野菜、その他の野菜・果物の摂取量が有意に少ない。

(「健常高齢者における咀嚼能力が栄養摂取に及ぼす影響」神森ら、日本口腔衛生学会雑誌、第53巻、13-22、2003年)

 

○自立した高齢者44名(平均年齢75.3歳)を調査した結果、噛めない群は摂取エネルギー量が有意に少なく、炭水化物エネルギー比が有意に高い。柔らかい食品を有意に摂取する傾向がある。(「高齢者の咀嚼能力と食事摂取状況の関連」山内ら、名古屋女子大学紀要、第54号、89-98、2008年)

 

○平成年齢63.6歳の成人を調査した結果、総義歯群では、総エネルギー及びたんぱく質、脂質摂取量の低下を認めた。体重、BMI、血清アルブミンの低下も認めた。

(「咀嚼と栄養-特に食事摂取に及ぼす影響に関して」田中ら、消化と吸収、第28号、54-59、2006年)

 

○自立した65歳以上高齢者352名を分析した結果、未補綴喪失がある者は、ない者に比べて、総エネルギー摂取量が不足するオッズが2.2倍高かった。

(「自立高齢者における歯牙欠損部の放置と栄養摂取状況との関連性」秋野ら、北海道歯学誌、第29巻、第2号、159-168、2008年)

 

(2)歯の保有状況と食品群・栄養素の摂取量との関連

○現在歯数の少ない人たちに摂取量が少ない食品群は豆、野菜、果実、きのこ、魚介、肉、乳、油脂類で、栄養素はたんぱく質、ミネラル類、ビタミン類、食物繊維であった。

○現在歯数の少ない人達の摂取量が多い食品群は穀類、栄養素は炭水化物であった。

○要補綴歯数が多い人たちは食物繊維の摂取量が少なかった。

(「平成17年国民生活基礎調査とリンケージした国民・健康栄養調査データによる解析」安藤ら、平成23年度厚生労働科学研究)

 

(3)要介護高齢者の歯・口腔と低栄養

○特別養護老人ホーム3施設に入所する要介護者145名(男29、女116)を調査した結果、食形態の軟食化に従い、BMIは低下した。ADLが低下した集団でBMIはより低値を示した。認知症が重症になるとBMIはより低値を示した。咬合支持領域とBMIに関連はなかったが、嚥下機能が低下した集団ほどBMIが低値であった。

(「要介護高齢者の栄養状態と口腔機能、身体・精神機能との関連について(菊谷ら、老年歯科医学、第18巻、10-16、2003年)

 

○全国8都市の在宅要介護者716名(男240、女476)を調査した結果、低栄養リスクと有意な関係があったのは、性別、Barthelindex(ADL評価のひとつ)、咬合関係であった。

(「居宅要介護者の低栄養リスクと口腔機能との関係」菊谷ら、H23年厚生労働科学研究)

 

(4)咀嚼能力と調理法

○「咀嚼」と「調理法」をキーワードに系統的文献レビューを行った結果、噛めない人に対する代償的な調理方法として、隠し包丁などの切り方でああった。特に、乱切りは口腔内では食塊形成しやすい傾向にあった。一方、千切りやきざみ食は食塊形成能は低下する傾向にあった。加熱も有効な方法であった。

(「咀嚼能力低下者に対する食品選択と調理法」三浦ら、平成23年度厚生労働科学研究)

 

○高齢者の口腔内の状態と好ましい牛肉のテクスチャーの関連性を調査した結果、高齢者には長時間加熱よりも、切込みを入れる方が食べやすさにつながると考えられた。肉を長時間加熱するとほぐれやすくなるが、ぱさぱさと歯にはさまりやすく、食べにくくなることがわかった。食べやすい加熱時間は、牛すね肉は60分、もも肉で15分であった。

(「高齢者に対する牛肉の食べやすさの調理による向上」戸田ら、日本家政学会誌、第59号、881-890、2008年)

 

※文献調査報告書はこちら(pdfファイル:3914.1kb)

 

2.歯科医院受診患者の栄養状態に関する調査

 

自立した高齢者に低栄養リスクの方がどの程度おられるのかを把握するための栄養調査を行いました。

 

(1)方法

1)低栄養リスクの調査

低栄養と関連があるうつ状態や認知症の状態も評価項目に取り入れているMNA(R)(MiniNutritionalAssessment)のShortFormであるMNA(R)-SFを用いて栄養調査を行ないまいした。

2)調査先

島根県歯科医師会地域福祉部委員の8歯科医療機関で行いました。

3)対象者

平成24年12月10日から平成24年12月22日までに8歯科医療機関に来院した高齢者(65歳以上)で、調査の趣旨(自立した高齢者の低栄養の把握)に同意いただいた256名程度に調査を行いました。

4)評価と事後措置

MNA(R)-SFに記入し、「栄養状態良好」、「低栄養のおそれあり」、「低栄養」の評価をして被調査者に伝え、口腔機能の低下によって、総エネルギー摂取量低下、蛋白質・ミネラル・ビタミンの摂取量低下と炭水化物増といった栄養バランスの崩れにつながることを知っていただき、不足分を調理の工夫等で摂取するよう説明しました。

(2)結果

「低栄養のリスクがあり」と判定された者の割合が29%、「低栄養あり」の割合が4%でした。

 

今後、口腔機能と栄養との関係についての調査等を行うとともに、歯科保健医療の立場から高齢者の低栄養予防の取組を検討していく予定です。

 

 


お問い合わせ先

健康推進課