島根県のブロードバンド戦略
- 島根県は、条件不利地域のブロードバンドを全国に先駆けて実現していきます。 -
平成16年6月
島根県情報政策課
はじめに
IT(情報通信技術)は、過疎地域や離島など条件不利地域の地理的ハンディキャップを克服し、少子・高齢化問題や雇用対策など地域が抱える様々な課題を解決していく有力な手段となります。
また、厳しい地域間競争を勝ち抜いていく「切り札」であり、多様な可能性に挑戦する「扉」を開く重要な役割を担っています。
このようなITの重要性を踏まえ、全国の行政関係者は、それぞれに英知を結集して、IT社会を支える情報通信基盤の整備に取り組んでいます。
その中で、民間通信事業者の設備投資によって全国屈指の情報通信環境を実現しようとする島根県のブロードバンド戦略は、独自の特徴を持つものとして全国の注目を集めています。
1.島根県のブロードバンド戦略の特徴
(1)「自営線方式」から方針転換
島根県のブロードバンド戦略の第一の特徴は、行政が自ら情報通信基盤の設置管理を担う、いわゆる「自営線方式」から方針転換し、民間通信事業者による積極的な設備投資の誘導に徹することとした点が挙げられます。
また、第二の特徴は、条件不利地域を含む県内全域で、都市と同等のブロードバンドを実現することに徹底的にこだわり、地理的・地域的なデジタルディバイドの解消を目指している点があります。
採算性を重視せざるを得ない民間通信事業者の設備投資に依拠しながら、採算性の悪い条件不利地域においても都市と同等の情報通信環境の実現を目指すという、一見して相矛盾するような二つの課題の両立に、人口規模が小さく過疎・高齢化の進んだ島根県が挑んでいます。
このことが、「島根モデル」として全国から注目されている所以です。
(2)民間では無理という先入観を持たない
条件不利地域では、行政の積極的な関与がなければ情報通信環境の向上は望めない。このことは、全国の行政関係者の共通認識になっていると思います。問題は、行政の関与の在り方に多様な選択肢があり得るという点が見過ごされがちなことです。
一見して通信需要が乏しいと思われがちな過疎地域や離島であっても、行政・産業界・県民を挙げて需要喚起を図りながら、民間通信事業者に対する的確な支援策を講じることによって、民間の設備投資を促進することができるということを、本県はこれまでの取り組みを通じて学んできました。
一方、全国的に散見される行政の「自営線方式」は、場合によっては、行政による重複投資を通じて民業を圧迫し、民間通信事業者の設備投資意欲を阻害する方向に働くこともあるのではないか、と懸念されます。
IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)に規定されている行政と民間との役割分担、すなわち「民間が主導的役割を担うことを原則とし、国及び地方公共団体は、民間の活力が十分に発揮されるための環境整備等を中心とした施策を行う」という基本原則に立ち返って、行政の関与の在り方を幅広く議論する必要があるのではないか、と本県は考えます。
2.ブロードバンド利用環境の現状
本県は、県内全域のブロードバンドを実現するため、平成13年度から平成15年度にかけて、ADSLが届きにくい電話局舎から遠距離地域の対策として「リーチDSL」を導入したほか、通常ではDSLサービスを提供できない面積狭隘なボックス型電話局舎や、電話回線の光収容エリアにおいても所要の対策を講じることによって、実質的に空白地域が生じないような施策を採ってきました。
その結果、平成16年3月末時点でブロードバンド(高速インターネット接続サービス)の提供エリアが、県内全世帯数の99%をカバーしています。
また、光通信の情報ハイウェイ(超高速・大容量の県域バックボーン)については、県内全市町村にアクセスポイントを配備した、伝送速度10Gbpsの「全県IP網」が、民間通信事業者の設備投資によって平成14年6月に完成しており、既に県内全域をカバーしています。
3.島根県における情報通信インフラの発展シナリオ
本県の情報通信環境は、前述のように既に全国トップレベルに達しつつありますが、今後も急速に進展していく技術革新の動向に即応して本県の情報通信環境をさらにレベルアップしていくためには、県、市町村、民間通信事業者、産業界及び多くの県民が目的意識を共有して連携・協力していく必要があります。
このため、本県は、中長期的な視点に立った行動指針となる「情報通信インフラの発展シナリオ」を平成15年2月に公表し、関係者の理解と協力を要請しています。
- 資料参照:「島根県における情報通信インフラの発展シナリオ」[PDF:82kb]
- 資料参照:「島根県における情報通信インフラの発展シナリオ(イメージ図)」[PDF:77kb]
この「発展シナリオ」は4つのステップで構成していますが、本県は、第二ステップを既に登り終え、第三ステップに足をかけているところです。
今後の精力的な取り組みを通じてあと二段の階段をのぼり、最終的には条件不利地域におけるFTTH(加入者系光ファイバサービス)を実現していきます。
第一ステップ:「全県IP網」完成(2002年)
「発展シナリオ」の第一ステップは、超高速・大容量の県域バックボーン(基幹通信網)の構築です。本県ではこれを「全県IP網」と称しており、平成14年6月完成しました。
過疎地域や離島など条件不利地域を含め、県内全市町村をループ状に貫く中継系光ファイバ回線が民間通信事業者の設備投資によって既に敷設済みであり、さらに県域バックボーンとアクセス系回線網との接続点となる「ノード」(情報通信のインターチェンジ)を各市町村に最低1ヶ所以上、全県で80ヶ所以上配備したものです。
伝送速度は10Gbps以上であり、本格的なブロードバンド時代に十分対応できる容量を確保しています。
この「全県IP網」の実現手法ですが、本県は、第一ステップでは民間通信事業者に対する直接的な財政支援を行いませんでした。
(1)本県では行政の「自営線方式」を採らないこと。
(2)民間通信事業者の設備投資によって構築される情報通信環境を、行政・産業界・県民を挙げて積極的に利用すること。
以上の基本方針を明確に打ち出した上で、民間通信事業者に対して経営判断を求めたところ、複数の通信事業者が設備投資に踏み切ることを決断され、約12ヶ月間で全国屈指の県域バックボーンを作り上げたものです。
なお、本県の行政ネットワーク(「しまねフロンティアネットワーク」)の再構築に当たって、民間の光通信サービスを調達する方法を採ったことも、通信事業者にとって一定のインセンティブになったものと考えています。
第二ステップ:「全県高速インターネット環境」実現(2003年)
次に第二ステップですが、県域バックボーンの全市町村カバーという前提条件が整ったため、ISP(internet service provider、いわゆるプロバイダ)にとっては県内全域で高速インターネット接続サービスを提供するための基盤が確保されたことになります。
これを受け、県・市町村・民間通信事業者が連携・協力して、県内全域でDSLサービス又はCATVインターネットを利用可能にする「全県高速インターネット環境」の実現に取り組み、その成果として平成16年3月末時点で県内全世帯数の99%をカバーしたところです。
第二ステップの実現手法としては、採算性の悪い条件不利地域におけるISPの設備投資を誘導するため、県と市町村が連携してISPに補助金を交付する本県独自の財政支援制度(「市町村IT化総合推進補助金」)を創設しました。
第三ステップ:光通信による地域公共ネットワーク構築(2003年-2005年)
本県では既に「全県IP網」が完成していますが、これは県内全市町村に所在する電話局舎をループ状に結ぶ中継回線を光ファイバ化したものです。FTTH(加入者系光ファイバサービス)を実現するためには、さらに各市町村の電話局舎から利用者の自宅・事業所に向けて加入者系光ファイバ網を新たに敷設していく必要があります。
本県においても、都市部を中心に民間のFTTHサービスが既に始まっていますが、条件不利地域においては、行政による戦略的な関与がなければ民間通信事業者による加入者系光ファイバ網の敷設が進まない実態があります。
このため、本県は、今後の取り組みを第三ステップと第四ステップという小刻みの二段階に踏み分けることによって、このハードルを乗り越え易くしようと考えています。
まず、第三ステップは、電話局舎から県内全域に点在する集落の中心部まで加入者系光ファイバの敷設を進め、併せて、今後のFTTHサービス展開に向けた「き線点」(ユーザー宅に向けた最前線の配線点)を集落ごとに確保しようとするものです。
具体的な実現手法としては、県内の市町村に対して、市町村合併を見据えた広域の地域公共ネットワーク(行政機関・公共施設を結ぶ行政ネットワーク)を構築するよう働きかけています。
そして、地域公共ネットワークを構築する際、伝送路を自ら設置管理する「自営線方式」を採るのではなく、民間の光通信サービスを調達する方法を採るよう助言しており、この方法を採用した市町村に対して県から通信サービス利用料の一部を助成する新たな財政支援制度(「地域公共ネットワーク構築支援交付金」)を創設しました。
この制度創設を一つの契機として、県内の市町村や合併協議会は、光通信サービス調達に向けた発注手続を進めつつあります。一方、民間通信事業者は、市町村からの発注を受け、公共施設等への加入者系光ファイバの敷設に併せて、集落ごとの「き線点」を確保する先行投資を精力的に進めているところです。
したがって、この第三ステップも、第一ステップと同様、直接的な財政支援ではなく、需要喚起策を通じて民間通信事業者に設備投資のインセンティブを与えようとする考え方を採ったものです。
なお、昨今の光通信サービスの飛躍的向上に伴い、本県の試算では、自営線の保守管理経費よりも民間サービスの調達経費の方がかえって安くなる傾向にあることから、民間調達方式は、行政・通信事業者の双方にとってメリットの大きい手法であると考えます。
第四ステップ:条件不利地域のFTTH実現(2006年頃-2011年頃)
最終段階の第四ステップは、民間通信事業者の設備投資によって、集落ごとに確保された「き線点」から利用者の自宅・事業所へと光ファイバを伸ばし、FTTH(加入者系光ファイバサービス)を実現するものです。
今後、都市部を中心に民間の設備投資が進んでいくことが期待されますが、条件不利地域においては、採算性のハードルを乗り越えるために行政による支援措置が必要になるものと考えています。
支援措置の具体的内容については、民間通信事業者とともに検討を重ねている段階であり、現時点で確定しているわけではありませんが、通信事業者による設備投資に対して補助金を交付するという直接的な財政支援の手法も十分検討に値すると考えます。
また、公正競争条件の観点からは、事業者にとって公平な支援措置である投資促進税制が効果的であると考えています。
いずれにしても、この第四ステップは、IT基本法に謳われている「すべての国民が情報通信技術の恵沢を享受できる社会の実現」のために必要不可欠な施策であることから、本県は、国に対して具体的な支援制度の在り方を提案していく考えです。
- 第四ステップの実現方策に関する考察 [PDF:77kb]
4.関係者への協力要請
最終的な目標として条件不利地域におけるFTTH実現を目指すことは、過疎・高齢化の進んだ本県にとっては難易度の高いものです。
しかしながら、第二ステップまでを着実に登ってきたこれまでの経験に照らせば、県、市町村、民間通信事業者、産業界及び多くの県民が連携・協力しながら、同じ方向性を持って、言い換えればそれぞれのベクトルを合わせて積極的な取り組みを進めていくことができれば、目標の達成は十分に可能になるものと確信します。
特に、市町村や民間通信事業者など関係者には、「情報通信インフラの発展シナリオ」の目的・意義を十分に理解いただき、積極的な協力をお願いしたいと考えています。
また、本県のブロードバンド戦略は、地理的・地域的な情報格差のない「健全なIT国家」を築いていく上で、全国に通用する普遍性を持った取り組みであると自負しています。
このような趣旨から、総務省をはじめとして国の十分な理解と支援をお願いしたいと考えており、今後とも様々な機会を通じて国への要請活動を行なっていく考えです。
また、本県の考え方に賛同いただける全国の都道府県・市町村と連携を図りながら、ブロードバンドの地域格差是正を求める要請活動の輪を広げていきたいと考えています。
国への要請事項
- 条件不利地域における民間通信事業者の設備投資を促進する支援制度の創設(PDF:12kb)
- 電気通信事業におけるバランスのとれた競争政策の確立(PDF:10kb)

