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中山間地域・離島調査特別委員長報告

 

中山間地域・離島調査特別委員長報告  平成23年2月定例会(3月4日)

 

     ○はじめに

  本委員会は、平成21年5月臨時議会において設置され、中山間地域並びに離島の維持活性化に関する審査及び調査を付託されました。

 本県の大部分を占める中山間地域は、豊かな自然や古くから育んできた文化を有し、地域住民の生活の場であり、それらが有する水源涵養や土砂災害防止及び豊かな食材の提供など重要な「社会的価値」を有しています。加えて、離島においては、我が国の領土、排他的経済水域の保全等その役割は非常に重要であります。

 本県においては、全国に比べ早い時期から中山間地域に対する支援策を検討・実施しており、平成11年3月には全国に先駆けて中山間地域対策基本条例を制定し、以降は中山間地域に関連した特別委員会で計4回の施策提言を行い、執行部においても、これに呼応して幾多の施策を展開されてきたところです。

 しかしながら、依然、人口減少や高齢化の進行は止まらず、地域の担い手不足によって、地域の資源管理や地域社会の存続が危ぶまれる状況となっています。

 さらに、冠婚葬祭をはじめ、農作業、祭りなど地域社会の基礎的な単位として機能してきた「集落」の活力が低下し、集落単位では将来的に地域を維持していくことが難しくなってきています。

 こうした実情は離島である隠岐においても同様であり、隠岐の場合はこれに加え、隠岐航路が本土と隠岐を結ぶ道路として、島民の生活をはじめ隠岐地域の振興を図る上で必要不可欠なものでありますが、隠岐航路の唯一の運航事業者である隠岐汽船株式会社は、人口減少や公共事業削減等による輸送需要の減少や燃料油価格の高騰など厳しい経営環境下にあるために、航路運賃は高止まりを続け、本土のバスや鉄道の運賃と比べ割高となっており、さらにそのことが観光客離れ等利用者の減少につながるといった悪循環となっています。

 今回は、現在直面する中山間地域・離島の危機的な状況に対し、これまでの提言や施策展開も踏まえ、改めて中山間地域あるいは離島のニーズを掘り起こすとの基本認識の下に、初めて中山間地域と離島を合わせた維持活性化策を調査する特別委員会となりました。

 以来、2年間にわたり島根県中山間地域活性化計画の重点テーマであります「持続可能な地域社会の仕組みづくり」と「離島における航路等のあり方」について、執行部から事業の進捗状況や今後の計画、課題などについて説明を受けるとともに、各種の調査活動を実施してまいりました。

 この間には、初めてソフト事業へ過疎対策事業債の充当が盛り込まれた改正過疎法が平成22年3月に成立し、また国土交通省では、安全で安心な地域の移動手段を確保するための交通基本法が今通常国会において法案提出が予定されるなど、中山間・離島地域の支援策は大きく変化いたしました。

 一方、島根県におきましても、「多様な主体の参画による、集落を超えた新たな地域運営の仕組みづくり」を進めるためのモデル事業として、平成20年度から2カ年の時限事業で「中山間地域コミュニティ再生重点プロジェクト事業」を実施され、さらに今年度まで延伸して継続的な施策を行っております。

 また昨年5月と12月の重点要望においては、離島航路における移動コストの軽減に関する要望を実施されるなど、本県の精力的な支援策や活動に対して、高く評価をするところであります。

 それでは、中山間地域並びに離島の維持活性化に関して調査の状況を御報告いたします。

 

○調査テーマについて

 中山間地域・離島の維持活性化、特に中山間地域については、これまでも提言を重ね、論点や課題向かうべき方向がほぼ出尽くしており、改めて幅広に調査を行うことは、これまでの提言との重複や漠然とした結論を導くだけになる恐れがありました。

 そこで、中山間地域については島根大学教育学部の作野准教授、並びに離島については全国離島振興協議会から、それぞれ講義を受けて概観するに留め、以降は現在の焦点となっている県施策を現場において検証することとし、中山間地域については「中山間地域コミュニティ再生重点プロジェクト事業について」、離島については「離島における航路等のあり方について」の2つにテーマに絞り込むこととしました。

 

○中山間地域対策について

 初めに、「中山間地域コミュニティ再生重点プロジェクト事業」についてであります。

 「中山間地域コミュニティ再生重点プロジェクト事業」は、新たな地域運営の仕組みづくりを支援するものであり、県内5市町10地区をモデル地区として多様な主体が連携あるいは協働する住民組織で運営されておりますが、今年度末を持って事業完了する予定であります。

 そこで、モデル地区それぞれの住民組織の活動や地域内外とのつなぎ役、調整役を担う「地域マネジャー」の役割について、事業効果と併せて調査に取り組んでまいりました。

 そのうち、本委員会が現地調査を行ったのは、邑南町市木地区の「安夢未(あゆみ)プロジェクト」、浜田市波佐・小国地区の「縁(えにし)の里づくり委員会」そして雲南市波多地区の「波多彩り(はたいろどり)プロジェクト」の3地区であります。

 まず、邑南町市木地区の「安夢未(あゆみ)プロジェクト」では、データ部会、森林部会並びに交流企画部会の3つの部会を立ち上げ、地区の歴史調査や竹の有効利用、田舎ツーリズムによる都市と農村との交流を推進しており、地域マネジャーについては、昨年度まで地域内の人材から選考されていたのをより新たな視点を求めるために、今年度は公募により決定され、若い女性の感性を集落内に取り込んでいます。

 次に、浜田市波佐・小国地区の「縁(えにし)の里づくり委員会」では、生産振興事業部会並びに生活安全対策事業部会の2つの部会を立ち上げ、産直市の試行や野菜の集荷に合わせた見守り活動の実施など地域として活発な行動が実施されており、元JA職員と元公務員という専門的知識を有した人がそれぞれの部会で地域マネジャーとなって、さらに浜田市役所金城支所職員とも密接に連携し、官民一体となってその運営に携わっています。

 そして雲南市波多地区の「波多彩り(はたいろどり)プロジェクト」では、地域資源や課題等を分析して「生活」「交流」「産業」の3つの班を編制し、ハザードマップづくりや地域内送迎システムの試行、交流センター内での日用品の販売試行などを実施しており、地域マネジャーについては、初年度にIターンの方を次年度は地域内の方を選考するなどして、交流センター職員や独自に雇用した地域コーディネーターと共に日々奔走しておられました。

 また、地域の活性化といった観点から、地域で生産された農産物が学校給食の食材として活用されている邑南町と川本町において、地域の取り組み状況やその課題について、併せて調査を実施したところです。

 島根県内の中山間地域には、約3,500もの集落がありますが、このうちの一割を超える集落がいわゆる限界集落(高齢化率50%以上かつ世帯数20戸未満)となっており、今後さらに加速する人口減少や高齢化の中、生活の維持が困難となり集落の崩壊・消滅につながる可能性が一層懸念されます。

 こうした地域で必要なのは、地域の担い手が不足する中にあって、単一の自治会だけでなく地域住民が一緒になって考え支え合うことであり、モデル事業終了後も地域の主体的な活動が持続することはもちろんのこと、事業の成果・ノウハウが県内の他の地区へ波及するよう関係部局が連携し、市町村や地域をサポートすることが必要であります。

 特に、今回調査した「地域マネジャー」や「集落支援員」など地域運営のつなぎ役、調整役となる人材の確保やその育成が重要であります。

 また、行政職員が地域の担い手の一人として果たす役割は非常に大きいものがあり、率先して出身地集落などの応援団として、その役を担うことが必要であり、例えば、地域が取り組む活性化事業や集落の伝統行事へ研修として参加することも有効ではないかと考えます。

 

○離島の維持活性化について

 次に、離島航路の維持・活性化についてであります。

 現在、隠岐汽船株式会社は、本県をはじめ関係行政団体の支援を受けて、経営再生に取り組まれ、順調に再生計画が達成されつつありますが、今後とも輸送需要の減少が続くと見込まれ、高止まりしている運賃の値下げは容易にはできない状況にあります。

 しかしながら、隠岐地域の振興を考える上では、島民の負担軽減及び観光客等の交流人口の拡大を目的に運賃を値下げするといった運賃政策を検討する必要があり、一方で、次期超高速船(いわゆるポストレインボー)の導入など、利便性の維持・向上についても同時に取り組んでいく必要がありました。

 このため本委員会では、全国に先駆けて航路の運賃の低廉化に取り組んでおられる長崎県の施策について調査するとともに、長崎・五島列島間を結ぶ超高速船「ジェットフォイル」の運航状況についても併せて調査を実施しました。

 長崎県では、平成21年度から社会資本整備総合交付金を運航事業者に補助することで運航事業者の経費負担を軽減し、運航事業者は、それに相当する額を現行の運賃から値下げするといったスキームで運賃低減化に取り組んでおられ、調査時点では、社会実験として位置付け運賃割引の対象者を高齢者や学生等に限定されていましたが、一定の評価を得ているとのことでした。

 また、超高速船「ジェットフォイル」については、他の高速船に比べ乗り心地がよく、就航率も高く安定した運航を確保できていることが分かりました。

 離島航路を生活道路として位置付け、船舶の建造や修繕は道路整備と同じ社会インフラ整備とし、実際に道路整備と同じ財源(社会資本整備総合交付金)を活用している長崎県の事例は、本県にとっても参考になると思われます。

 運賃の低廉化をはじめ離島航路の維持・活性化については、全国の離島が抱える共通のテーマであると同時に、隠岐のような離島を守り続けることは、国境監視や経済水域の維持・管理という要素を持った国策でもあることから、国の責務として実施するよう今後とも国へ対し働き掛けを行うことが何よりも先決であり、重要であります。

 

○さいごに

 最後になりますが、中山間地域並びに離島の維持・活性化につきましては、本県の至上命題であるとも言え、「集落」の消滅はその地域住民のみならず都市住民にとっても大きな損失であります。

 来年度から実施する「中山間地域コミュニティ再生支援事業」については、「モデルづくり」から「本格導入」へ展開する重要な施策であり、市町村へのサポート体制が必要であります。

 また、フェリー同様に島民生活に欠かせない交通手段となっています次期超高速船(いわゆるポストレインボー)は「ジェットフォイル」と決定され、その導入については、県としても隠岐4町村の負担が軽減されるような支援を取り組むことを決断されましたが、引き続き隠岐航路の維持・活性化に向けた取り組みを実施することが不可欠であります。

 この2年間で積み重ねた貴重な議論を糧として、我々議員や執行部はもちろんのこと県民総ぐるみで、活力ある「集落」の再生に向けて一層努力されることを希望して委員長報告といたします。

 

 

 



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