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島根の子供たちに大切にしてほしいもの

 島根県教育委員会教育今井康雄

 

 

 校長先生方には日頃から島根の教育の充実のためにご尽力いただき感謝申し上げます。今年もよろしくお願いいたします。

 ところで、変化の激しい時代ではいささか旧聞に属するかもしれませんが、昨年のロンドンオリンピックでの「なでしこ」の活躍。三年前のW杯同様、ひたむきで健気な動き、華麗なパス回しやコンビネーション、絶体絶命の危機を救った神がかり技を生むあきらめない粘り、そして、「耐えて忍ぶ」姿は、私どもの琴線に触れ、多くの人々に感動を巻き起こしました。今日の社会風潮を思うにつけこうしたパフォーマンス(ふるまい)に心から拍手を送りたいと思います。

 私は、いわゆる団塊の世代、ともすれば旧来の価値観、生活様式にとらわれがちな年代に属しており、世の中のめまぐるしい変化に日々とまどいを覚えています。中でも、めざましく進歩する情報手段。スマフォ等大変便利なものが出現しましたが、それらを耳に当てながら街中を歩き、ベンチに腰掛けても電車の中でも片手でカチカチにらめっこ。そうした若者(年配者も)の姿をよく見かけます。どうにもなじめない光景です。

 翻って、昨今の教育界の大きな課題となっている「いじめ」問題。教育現場の適切な対応の大切さを自戒も込めて確認していく必要があります。ただ、陰湿で歯止めのきかない事態が生じている背景に大人社会の影響を感じずにはおられません。○か×か、白か黒か等単純明快な結論を早急に求める傾向、自己中心的な主張・行動、極端に一方向に流れやすい世論、その結果としての潤いの少なくなった社会。ネット・テレビ等から簡単に表面的な情報を獲得でき、また、顔も見ず声も聞かずに他人と情報交換できる便利さ等が、こうした最近の風潮、社会の有り様の変化をさらに加速させ、子供たちから、他人への思いやり、卑怯を恥じる心、忍耐力、想像力等を失わせつつあるのではないかと危惧しています。

 人と関わり合う機会が乏しくなっている子供たちに、社会の楽しさ、厳しさを味わう機会をもっと経験させることは私たち大人の責任だと思います。

 ちなみに、私の少年時代を振り返ってみますと、通った学校は田舎の田園風景の中に在り、小中学校と顔ぶれもほとんど変わることなく、今で言う小中一貫校。多くの親は学習に関してはどこまでも放任主義、一方でしつけは世間体もありある意味厳格。暖かくも厳しく叱ってくれる地域とのふれあいも。子供たちの世界では、虚勢を張る餓鬼大将がいて厳しい上下関係もありました。物質的には決して豊かとは言えない環境の中でも、世間を生きていく上での自立心、知恵や力を自然と身に付けることのできる相応の秩序が形成されていたように思います。当時怖いものと言えば、火事、雷、親父、近所のおじさん、それに教師。今は...。豊かさ、便利さを得た一方で失われたものも大きいと感じます。

 また、出身小学校の校歌は「かんなび山の朝空に...」で始まります。当時は校歌の意味もあまり考えずに歌っていましたが、今では私だけでなく多くの仲間が地域の歴史・文化の重みや大切さを感じていることと思います。この私の地域では、今でも、とんど焼き、大餅さん、荒神祭り等昔からの行事が続けられています。伝統を引き継ぐことは本当は大変めんどうなものです。ただ、おそらくは無くなってはじめてその価値が分かるように思います。できる限り続けたいものです。

 さて、今、食育の重要性が指摘されています。とりわけファーストフード全盛の中で、和食が健康や文化的価値の側面から世界的にも注目を集めており、日本政府により世界無形文化遺産に登録申請がなされているようです。まさに同意であります。東日本大震災を経験し、自然の脅威との共生が重要な課題となっています。和食は、健康はもとより、地産地消の言葉の通り、回りの自然や生命への感謝の念を育む大きな力となります。幸いに、帰省中の孫は、黒豆、ごまめ、芋の煮付け等の田舎の正月料理を喜んで食しています。きっとふるさとの自然をいつまでも心に留めてくれるものと思います。

 

『校長会報平成24年度第3号掲載文』

 

 


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